Nature/Scienceのニュース記事から



第64回(2014年4月14日更新)

家庭環境が悪いと子供のテロメアが短くなる

テロメアは染色体の末端を保護するDNAの反復配列である。アメリカの大都市の貧困家庭に育つ9歳の男の子40人の染色体を調べたところ、家庭環境の悪い子供のテロメアは、家庭環境が良い子供よりも19%短いことがわかった。テロメアの長さは通常、慢性的なストレスの指標とされている。この研究結果は、子供時代の社会的条件が長期的な健康にどのように影響するのかを示す第一歩であると見られる。この研究は、米国科学アカデミー紀要で報告された。
(http://www.pnas.org/content/early/2014/04/02/1404293111)

NIHから資金を得ているFragile Families and Child Wellbeing Studyという取り組みでは、主に未婚の親から1998年から2000年に産まれた大都市圏の子供たち5,000人を追跡調査している。今回の論文はそのうちの40人の解析結果を報告したものである。子供の環境は、母親の教育レベル、家庭のニーズに対する収入の比率、厳しいしつけ、家族構成の安定性などの要素に基づいて評価された。

高校を卒業した母親を持つ子供は、高校を中退した母親を持つ子供よりもテロメアが32%長かった。また、安定した家庭の子供は、母親のパートナーが頻繁に変わるなど不安定な家庭の子供よりもテロメアが40%長かった。

ストレスの多い家庭環境とテロメアの長さとの相関は、脳内の2つの神経伝達物質セロトニンとドパミンを代謝する経路の遺伝子変異により調節されていることも新たにわかった。これまでの研究から、TPH2のような遺伝子の変異が鬱、双極性障害、その他の精神疾患と相関があることがわかっていた。また、5-HTT遺伝子の変異は、シナプスにおいてセロトニンをリサイクルするタンパク質の量を減らす。これらの遺伝子の変異は、外的リスクに対して感受性を増大させると考えられている。

今回の研究では、これらの変異により、良い家庭環境の子供らのテロメアはいっそう長く、悪い家庭環境の子供のテロメアはいっそう短くなることがわかった。これらの変異がない子供は、家庭環境によらずテロメアの長さにほとんど差がなかった。一方、これらの変異を2つ以上持つ子供のテロメアの長さは、家庭環境によって強く影響を受けることがわかった。これらの子供らにおいては、家庭環境が悪いとテロメアが最も短く、家庭環境が良いとテロメアが最も長かった。これらの変異は、ストレスに対する脳内の神経伝達物質の反応に影響することは以前より知られていたが、テロメアの長さとの関連はこれまでには知られていなかった。

今後、この研究チームは解析対象を2,500人に増やし、今回の小規模での研究と同じ結果が得られるかどうか調べる予定である。彼らは、ストレスの影響は9歳までで既に現れているため、早期介入が子供の健康に対するネガティブな影響を緩和するのに有効であるのではないかとしている。

http://www.nature.com/news/stress-alters-children-s-genomes-1.14997

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