Nature/Scienceのニュース記事から



第69回(2014年6月10日更新)

BRAINプロジェクトの野心的な計画が発表される

アメリカの神経科学者で構成されたNIHのワーキンググループが、昨年オバマ大統領がアナウンスした神経科学分野の一大イニシアチブ"BRAIN"の今後10年の計画を発表した。

それによれば、今後10年で45億ドル(約4500億円)の予算が必要だとしている。これは、1年ごとの予算として見ると2014年の予算の10倍以上となっており、実現は容易ではないかもしれない。

昨年4月にアナウンスされた神経科学分野のイニシアチブ"BRAIN" (Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies)は、一部で明確な使命や計画に欠けるという批判もあった。今回ワーキンググループは、NIH所長であるFrancis Collinsの諮問委員会に対して146ページに渡る報告書を提出した。この報告書によれば、7つの研究領域や目的が提示されており、その中には、脳の全細胞種の同定や脳の活動をリアルタイムで可視化する技術の開発、膨大な量のデータを解釈するシステムの構築などが含まれている。

Collins所長はこのワーキンググループの計画を素晴らしいと評価している。諮問委員会は全会一致でこの計画を承認し、委員会のメンバーの一人であるミシガン大学のHuda Akilは「これまでたくさんの報告書を読んできたが、これは私に喜びをもたらす唯一のものだ。これを読むと胸がドキドキする」と述べる。

コロンビア大学のRafael Yusteは、「この報告書はとても広い範囲にわたっており、かつとても深くてそして理にかなっている」と付け加える。Yusteは、BRAINプログラムの前身であった脳活動マッピングプロジェクトのアイデアの提唱者の一人であった。

Cold Spring Harbor LaboratoryのPartha Mitraは、この報告書は単一の目標を目指しているのではなく多数の方向性を強調しているとして、「ヒトゲノムプロジェクトとは違うということは明白だ」と言う。

ワーキンググループの議長であるロックフェラー大学のCornelia Bargmannは、この計画は、特定の疾患や研究ツールにこだわるのではなく、神経回路のレベルでの基礎研究に集中している、と強調する。したがって、幹細胞や遺伝子学といった研究分野は脳の神経回路に関連する場合のみ研究費を受けることができる可能性がある。また、そういったプロジェクトは脳を観察したり操作したりする技術の開発に重点をおいたものになるだろう、ともしている。

しかしBargmannは、この青写真は全員にとってよいものではないかも知れないとも認めている。たとえば先述のYusteは、天文学の分野で既に大型望遠鏡を研究者たちが使用しているのと同じように、脳を視るための「天文台」を作って研究者たちがそこに出向いてハイテク機器をつかうことができるような計画にもっと重点がおかれればより望ましかったと思っている。この計画ではそのような天文台を作る可能性を否定してはいないが、その前に技術的な進歩が必要だとしている。

Mitraがいうには、重要なのは、資金が他の神経科学研究費を削ってこのイニシアチブに充てられるのかそれとも議会から新たに予算が下りるのか、ということである。

計画では、最初の5年間(2016-2020)は、NIHは1年につき4億ドル(約400億円)の研究費を支給することとしている。この資金は主に神経細胞が発火するのをリアルタイムで記録するというような技術を開発するのに使われる。後半の5年間は、それらの技術をヒトや動物で活用するのに毎年5億ドル(約500億円)を支給するよう要請している。

Collins所長は45億ドルの予算を確保するのは難しいだろうと認めている。2014年のBRAINの総予算は1億1千万ドル(約110億円)であり、そのうちNIHが獲得したのは4千万ドル(約40億円)のみである。残りはNational Science FoundationとDefense Advanced Research Projects Agencyが受け取った。議会から新たに資金が下りなくては、要請されている額をNIHの予算から出すことは難しい。

しかしながら、このBRAINイニシアチブに熱心な人たちは、仮に満額ではなくともこの計画に資金は下りるだろうと考えている。National Institute of Mental Health (NIMH) 所長ののThomas Inselは、NIMHはBRAINのために他の神経科学研究費から資金を割くことも厭わない可能性もあるとしている。Inselは、BRAINイニシアチブによりバイオマーカーが見つかったり神経回路が解明されたりして、実際の治療に結びつくスピードが加速するのではないかと期待している。

http://www.nature.com/news/ambitious-plans-for-brain-project-unveiled-1.15375

ページトップへ戻る

Copyright(C) BioMedサーカス.com, All Rights Reserved.