Nature/Scienceのニュース記事から



第74回(2014年10月17日更新)

脳内のナビゲーションシステムの発見にノーベル医学・生理学賞

生体内の衛星ナビゲーションシステムとも言うべき脳細胞の発見により、3人の研究者たちが2014年ノーベル医学・生理学賞を受賞した。これらの細胞の発見により、空間内のどこに自分がいるのかをどうやって知るのか、という神経科学の大きな謎が解明された。

University College LondonのJohn O’Keefe氏は、1971年に記憶を司る脳領域である海馬にある「場所細胞」(place cell)を発見したことにより、今回の賞の半分を獲得した。残り半分を共同受賞したのはEdvard MoserとMay-Britt Moser夫妻で、彼らはノルウェーのトロンハイムにあるカブリシステム神経科学研究所に共同で研究室を運営しており、彼らは2005年に、海馬に隣接する脳領域である内嗅皮質にある格子細胞(grid cell)を発見した。

空間内のどこに自分がいるのかを知ることは、生存のための最も基本的なことであり、今回の発見は、脳がどのようにして世界を理解するのかという、より大きな課題に答える鍵にもなるだろうとされている。

多くの神経科学者たちは以前、脳の活動は行動と本当にリンクしているのか疑問を感じていたが、1960年代後半にO’Keefe氏は箱の中で自由に動いているラットの脳内の個々の神経細胞空の信号を記録することを始めた。彼は電極を海馬にあてて、ラットが特定の位置へ移動した時には個々の細胞が発火することを発見して驚いた。環境の記憶は、特定の組み合わせの場所細胞が活性化されることにより海馬に保存されるのではないかと結論づけた。それらの組み合わせを全部合わせれば、地図のようなものができるのではないかと思った、とO’Keefe氏は言う。

時は流れて1990年代に、O’Keefe氏の研究に興味を持ったMoser夫妻は、オスロ大学の博士課程を終えてO’Keefe氏の研究室にポスドクとして移った。しかし数ヶ月後にはトロンハイムのノルウェイ科学技術大学に移って自身らの研究室を開いた。そして、内嗅皮質にある細胞が、六角形の格子上の各点を通った時に発火することを発見した。そして、脳がこのパターンを空間認識の座標系として使っていることを明らかにした。

場所細胞も格子細胞も、現実的な妥当性がある。アルツハイマー病の初期には内嗅皮質が病変を起こすのだが、初期症状の代表的なものが道に迷うというものである。症状が進むにつれて海馬も破壊され、記憶力をなくしていく。今回の受賞対象となった発見は、非常に基礎的な研究が、重篤な疾患の治療法を開発するために必要となる深い理解を助ける良い例でもある。May-Britt氏は、ストックホルムのノーベル賞委員会から電話を受けた時、研究室のミーティングを司会していた。「電話を取るのをためらいましたが、取りました。そして、信じられませんでした。というより泣きました」と彼女は言う。また、Edvard氏はミュンヘンへ向かう飛行機の中だった。O’Keefe氏は知らせを受けたとき、自宅でグラントの査読をしていた。「非常に嬉しくて興奮しました」とロンドンでの記者会見で語った。

Moser夫妻は以前、O’Keefe氏の研究室で過ごした時のことを「おそらく私たちの人生に置いて最もハードな学習経験でした」と述べている。O’Keefe氏も同じような感想を持っている。「それはハードでした。彼らが真剣でしたから。彼らは本当に最高の科学者です。」

http://www.nature.com/news/nobel-prize-for-decoding-brain-s-sense-of-place-1.16093

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