研究者の声:オピニオン



2011年8月11日更新

研究者は家庭を犠牲にすべきなのか

若手研究者の人生が大変なことになってきている。

もちろん、研究人生は昔も楽ではなかった。新しい発見をするために夜を徹して実験をしたり調べものをしたりすることは古今東西行われてきた。ライバルの動向が気になって眠れない。今やっている実験が自分の仮説通りの結果を示してくれるのか不安で食事どころではない。寝食を忘れて研究に没頭というのは、良い意味だけではなくネガティブな側面も持っているのかもしれない。

しかし、私が言う「研究者の人生が大変だ」ということは、研究人生が苦難に満ちているということとは違う。普通の意味での人生、プライベートな生活と言ってもいいかもしれない、が破綻しようとしているのだ。

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数年前から目にするようになったポスドク問題や高学歴ワープアとも関係があるかもしれない。しかし、ポスドク問題は議論しない。既にこの問題は議論され尽くされてきた。結論はいつも一緒。老害を排除すべき、若手を積極的に登用すべき、である。そんなのは無理に決まっている。この問題を解決できる権力を持った人たちは、問題を解決してしまうと自分たちの利益(メリット)が減ることを良く知っているからだ。

なのでポスドク問題や高学歴ワープア問題は議論するだけ無駄である。むしろ「自己責任」とでもしておけば、低〜中程度の学歴のワープア達は喜ぶ。

ここではポスドクや高学歴ワープアに属する研究者の人生について見ていく。

ポスドクや高学歴ワープアに属する人は、大抵は若手と言われる30歳代〜40歳代前半である。彼ら彼女らの今後の見通しは悲惨である。研究者人口の過飽和、大学教授たちの定年の延長、研究費の削減、インパクトファクター重視の採用、採用枠の減少、査読コメントの厳格化・・・。彼らを困らせる要因は挙げればキリがないが、こういった要因はある一つの結果を引き起こす。

家庭を持てない。

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朝から晩まで研究室で実験。仮に実験の予定が少なくてもデータ整理や論文執筆。土日祝日などはもちろんない。しかも年収は300万円前後。ということは今では珍しくない。

「給料が少なくて辛いよね」

「でも、まだ給料が出るだけマシだよ」

「そうかもね、文系ポスドクなんてバイトしてるくらいだし」

「俺たちは好きな研究をして生活できているだけでも幸せだよ」

などという声が深夜のラボのキッチンから聞こえてくるかもしれない。(彼らは呑み屋に行く時間も金もない)

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最近、ScienceBlogに面白い記事が公開された。タイトルはMany top US scientists wish they had more children。詳細なデータは引用元の記事を読んでもらいたいが、要約するとアメリカで研究者にアンケートをとったところ、多くの研究者がもっと子どもを持ちたかったとの回答を得たようである。特に女性研究者の方が、その傾向が顕著であったようだ。

たしかに男性研究者は楽かもしれない。特に30年前は良かったはずだ。研究者で大学に残れば、自然と昇進していった。良い地位にいて給料が高ければ、仮に家庭を顧みなかったとしても、性格が破綻していても、見た目が悪くても、主婦となってくれる女性が見つかり結婚して子どもを持てた。そして周りから見れば、理想的な家庭に見える。仮面夫婦だとしても。

しかし、今の男性研究者は大変だと思う。誰もが教授になれる時代は終わったから。准教授はおろか、助教にすらなれない。運良く助教になっても任期が切れたらポスドクに逆戻りというのは既に現実として起きている。一部では、理系男子や白衣系男子がもてはやされているらしい。私が知らないだけで、もしかしたら男性研究者はもてているのかもしれない(*ただしイケメンに限る)。しかし、結婚となると女性はシビアである。いつの時代も女性は冷静で賢い(未婚のアラフォー&肉食系女子を除けば。)。結婚相手を探すとき、女性は、顔の善し悪し以上に将来性や資金力を精査してくる。となれば、一日中ラボに籠っていてお金も稼げない男性と結婚したがる人は多くはないのではないだろうか?出産適齢期を超えたアラフォー&肉食系女子に捕食されても良いのなら別だが。

さて、女性研究者の場合はもっと悲惨である。現在では良い地位にいて給料が高い女性研究者もいるにはいる。が、そういう女性の年齢は、おそらく若くても30代後半になっているのではないだろうか?女性蔑視と言われてしまうかもしれないが、男性とは異なり女性の場合は年齢が上がると結婚がしにくくなる傾向がある。また、仮に結婚をしたとしても、そのときは子どもを産める年齢を超えている可能性が高い。子どもを持つための年齢制限は、男性の方が圧倒的に緩いのである。

いずれにしろ、今の若手研究者(30歳代〜40歳代前半)は結婚しづらく子どもも持てない。仮に運良く若いときに結婚できた場合を考えてみよう。30歳前半までに結婚できたとしたら、出産は生物学的には可能である。しかし、朝から晩まで休みなく働くことが普通とされる職場環境で、出産のために一定期間休みます、育児のために一日9〜10時間くらいしかラボにはいれません、土日祝日は子どもの面倒を見ないといけません、と言ったら、どんな扱いになるのだろうか?

男性研究者ならば良い。嫁に任せられるから。亭主関白。素晴らしい響きではないだろうか、一部の男性にとっては。きっと仮面夫婦になると思うけど。しかも子どもは近寄ってこないだろうね、お小遣いを渡すとき以外は。

女性研究者の場合は大変である。専業主夫を見つけることは難しい。仮に見つけても、年収300万前後で一家を支えられるのか?もし共働きだとしても、自分は休みなしでラボだけど、夫は土日祝日休みで家事と育児をこなしてくれます、なんてことがありうるのだろうか?まあ、絶対に無いとは言い切れない。でも、そんな人生楽しいですか?

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世の中の医学生物学研究者は、建前では(本音の人もいるかもしれないが)、医学の進歩など世の中のためになることを目的に研究をしている。でも、そんな研究者は家族(家庭)のためになることをする時間も精神的余裕もない。

私は未婚のアラフォー女子である(*肉食系ではない)。

「いつどこで道を踏み外したのだろう?」

夜中、超一流(と業界の人に讃えられる)雑誌に掲載された自分の論文をCVに追加しながら、ふと口に出てきた言葉である。


執筆者:匿名希望

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