研究者の声:オピニオン



2012年3月19日更新

若手研究者が感じる世代間格差について

定年まで残り2年のロートル教授です。最近は世代間の格差がクローズアップされていて、多くの若者が老人に対して怒りを感じている印象を受けます。このことは研究の世界でも同様で、若手研究者(特にポスドクや助教などの任期付きの職にいる人)が年配の教授や准教授のことを「ずるい」もしくは「卑怯だ」などと言うことも時々耳にします。

しかし、若手研究者が世代格差を嘆くのは間違いだと私は思います。そこで、なぜそのように考えるかをこの場を借りて皆さんにお伝えしようと思います。この文章は、できれば若い人たちに読んでもらいたいのですが、あくまで私の主観によるものなので老人の戯言として読み流してもらっても構いません。

まず、なぜ若手研究者が世代格差を嘆くようになったかを簡単に振り返ってみましょう。

現在は研究者が飽和しています。特に35歳から40歳あたりの博士号研究者の数は多く、そのような人達はポスドク(もしくは任期付きの助教)のまま足踏み状態のことが多いです。そういった状況になっている原因はシンプルで、准教授もしくは教授になりたい研究者の数に対して、そういったポストの数が圧倒的に少ないからです。

そして、そのような「足踏み状態」の研究者は、その原因は業績のない年配の准教授や教授がそういったポストにずっと居座っているからだと考えるようになります。

この考察は一見すると破綻のない論理のように見えるため、若手研究者に職がないのは『老害』教授(もしくは准教授)がポストにしがみついているからだ、と心の底から信じている人がそこここにいます。しかし、率直に申せば、この考えは間違っています。

なぜならば、『老害』だと言われている教授連中が若いころは、アカデミック業界でのキャリア・パスは未知数でした。その進路への情報は今よりも圧倒的に少なかったのです。そのため、私たちはある意味「開拓者」として道なき道を進んできたのです。つまり、敢えて反論を受けるのを覚悟で厳しいことを言えば、先陣達が苦労して整備してきた道を後ろから歩いているだけなのに、その道が渋滞しているからと文句を言うのはおかしいのです。

このことは研究についても言えます。今の若手研究者(特にポストがないと嘆いている層)は新たな研究分野を自分で開拓していこうという心意気が足りません。他の人が開拓した研究分野で細々と実験しているだけなのに、「良い論文が出ない」「職がない」などと悩んでいるのは悪い冗談としか思えません。少し厳しい内容が続いてしまいましたが、将来の科学の発展を担う若手研究者の皆さんには、世代間格差を嘆くよりも、自分自身が開拓者となって頑張っていってもらいたいのです。

さて、ここで種明かしです。実は僕は2012年の4月から某大手企業に勤め始める修士2年の学生です。アカデミアの状況を調べれば調べるほど、この業界に愛想をつかしました。そのため、これからは大企業で安定した生活を楽しみます。ちなみに、この文章はtwitter上でBioMedサーカス.comのオピニオン執筆募集を見かけたので、試しに現在のダメ教授が思っているであろうことを想像して書いただけです。

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いかがでしょうか?書き手の素性が実は違っていたということを知って、この文章への感想が変わったという人がいるのではないでしょうか?もしそうだとしたら、その人は猛省をするか研究者を辞めた方がいいです。なぜならば、書き手の素性から書いてある内容を判断する人は、研究論文を研究の内容ではなく執筆者の情報でしか判断できないからです。有名ラボの論文だから良い研究などと信じている若手研究者があちこちにいます。それではダメなのです。

若い人が開拓者精神を失わず、かつ自分の目を磨いてくれることを心の底より望んでいます。この文章が、若手研究者の何らかの助けになれば幸いです。

執筆者:定年まで残り2年のロートル教授

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