研究者の声:オピニオン



2012年8月9日更新

ポスドクがCorresponding Authorを目指すことについて

敢えて言うまでもありませんが、過去10年の間にポスドクの数が劇的に増加し、現在は次のポストに進めない「停滞ポスドク」が特に医学生物学分野を中心として蔓延しています。

そのような「停滞ポスドク」の多くは、20年前ならば次のポストに進めるだけの能力も業績もあるため、色々な不満を心に秘めていることが多いように感じられます。また、彼ら・彼女らは基本的には優秀で幅広い情報収集能力を有しており(その割に、こんな不毛な分野に足を踏み入れたのは謎ですが)、しかも人並み以上の自己顕示欲もあるためか、ネット上の至る所で研究業界そのものに関する議論が行われています。

それら議論は、大部分では正しいと思われます。しかし、ポスドクの人たちは、研究業界の下層に位置するためか、研究業界全体を俯瞰することがやや苦手なときもあります。

その一つの例が、Corresponding Authorに関する捉え方です。

Corresponding Authorは、直訳すると「その論文に関する連絡を請け負う著者」となりますが、一般には研究責任者(つまりはラボのボス)がその役割を果たしています。最近、Corresponding Authorとなることを目指す(もしくは、Corresponding Authorとなったことを誇りに思う)ポスドクが少しずつ増えてきたように思います。

例えば・・・

「自分はポスドクだけどCorresponding Authorとしての論文を出すことを目標としている。なぜならば、そういった論文が出れば自分のアイデアで遂行した論文だと主張できるからだ」

とか

「知り合いの誰々さんはポスドクという立場にいるけれども、彼/彼女はCorresponding Authorの論文を出しているから独立した研究者だと見なせる。自分も早くCorresponding Authorの論文を出せるように頑張らなければ」

と言った類いの発言です。

こういったことを主張する気持ちはわからなくもありません。繰り返しになりますが、今はポスドク受難のときです。どこを見ても似たような業績や経験を持ったポスドクで溢れかえっていて、他のポスドクとの差別化はかなり難しくなってきています。

そんなとき、普通であればラボのボスにしかなりえない「Corresponding Author」の栄誉(?)を手に入れれば、それだけで自分は他のポスドクの一歩先を行っているんだと自分で自分を納得させられるのかもしれません。

気持ちはわかります。また、他のポスドクとの差別化を図るために色々な努力をすることも基本的には良いことです。

しかしながら、ポスドクがCorresponding Authorを目指す、もしくはCorresponding Authorだからポスドクだけど独立した研究者である、などというのはポスドクの将来の可能性を狭める危険性しかありません。

普通の意味で独立した研究者は、仮にポスドクがCorresponding Authorの論文を出していたとしても、そのポスドクを独立した研究者だとは見なしません。独立した研究者とは、自分のアイデアで研究費を獲得して研究を遂行し論文を出している人です。ポスドクは、あくまでpost-doctoral fellowであり、PHDを取得してあとに所属しているラボのボスの元でトレーニングを積んでいる研究者です。仮にポスドク中にCorresponding Authorの論文を出しても、それがトレーニングの終了(=独立ポジションの獲得)に直結するわけではないのです。

さらに、ボスによっては、自分の獲得した研究費で給料その他をもらっている自分のポスドクがCorresponding Authorになりたがったら不快感を示すこともあります。良いか悪いかは別として、アカデミック業界は、ボスの権限が絶対です。ボスに不快に思われてよい事など一つもありません。意見の対立が研究に関する事ならば、その後に好転することもあるかもしれませんが、Corresponding Authorなどという、ポスドクにとって瑣末なことに関してボスと対立することなど愚の骨頂です。

ただし、ポスドクでCorresponding Authorというは比較的珍しいのは事実で、それが難なく手にできるのなら手にいれておいて損はありません。ボスの中には、ポスドクの気持ちなどを考えて(単に論文投稿の手続きが面倒だからということもありますが)、積極的にCorresponding Authorにしてくれる人もいます。そういったときは、遠慮せずにその栄誉(?)を受けておけばよいと思います。

しかしながら、ポスドクがCorresponding Authorを目指すのは、彼ら彼女らのその後のキャリアにとっては実質的には意味がありません。そんな細かいことを気にしている時間があるのであれば、ボスに気に入られるためにゴマスリの一つでもした方がまだマシです。

「停滞ポスドク」を取り巻く状況は酷いために、彼ら彼女らは時に変な方向に考え方が向かってしまうことがあります。私の文章に異を唱える人も少なからずいるかもしれませんが、この文章が目指す方向性を間違えかけているポスドクの助けになれば幸いです。

執筆者:RY@アメリカ西海岸

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