研究者の声:オピニオン



2012年12月18日更新

論文査読システムの問題点

我々ライフサイエンスの研究者にとって、自らの研究成果を研究論文として学術雑誌に掲載させることは、研究活動の中で最も重要なものだと言えます。現在、膨大な数の学術雑誌が出版されており、インパクトファクターを元に大まかではあるのですが学術雑誌間の序列が決められています。

分野外の人から見れば滑稽に思えるのではないかと感じますが、“序列の高い”学術雑誌に頻繁に研究論文を掲載している人は、優れている研究者と見なされます。しかし、序列の高い学術雑誌に論文を掲載させるのは、序列が高くなればなるほど難しくなります。それは、論文査読システムというものが存在するからです。

論文査読システムとは、簡単に表現すれば、“同業者により投稿された研究論文の質を判定してもらう”というものです。ライフサイエンスの研究は、昨今の研究の進展に伴い、ますます幅広くかつ奥深くなってきており、投稿された研究論文の内容を正しく評価することは難しくなってきています。そのため、その研究論文と同じ分野にいる研究者に意見を求める必要があります。

一般に、一つの研究論文に対して査読者は2~3人が割り振られ、それぞれが投稿された研究論文に対してコメントを書きます。主には、その研究の新規性や実験アプローチ、実験データの解釈やそれから導きだされる結論が妥当であるかどうかについて厳しく精査されます。

そして、査読者はコメントとともに、その研究論文の掲載可能性をACCEPT(そのまま掲載可能)・MINOR REVISION(細かい場所を変更すれば掲載可能)・MAJOR REVISION(掲載のためには大幅に論文の内容を変更する必要がある)・REJECT(掲載に適さない)の4つから選択して学術雑誌の編集部に送信します。
(注:雑誌により、査読システムの詳細は異なることがありますが、大まかに言えば上記のようになっています)

その後、その研究論文の編集担当者は、査読者のコメントと自らの意見をもとに、最終的に投稿された研究論文の掲載可否を決定します。このとき、MINOR or MAJOR REVISIONとなった研究論文は、査読者/編集者のコメントに従って研究論文を改訂して再び投稿することで、学術雑誌への掲載が可能となります。

また、序列の高い学術雑誌は、投稿された研究論文が査読者に回る前に編集者の段階でREJECTとなることもあります(いわゆるEditor Reject)。さらに、仮に査読者に回ったとしても、査読者の数が5~6人と多いことも珍しくなく、研究論文が掲載されるためには、複数の査読者からのコメント全てに答える必要があり、多大な労力と時間がかかります。

そういったことからも、序列の高い学術雑誌に多くの研究論文を掲載させている人が優れた研究者と見なされるというのは、ある意味納得がいくものかもしれません。さらに、複数の査読者のコメントに従って改訂した研究論文は、改定前よりも大幅に改良されていることが多く、この査読システムは質の高い研究論文を世に送り出すために重要な役割を担っているとも考えられます。

しかしながら、こういった論文査読システムには数多くの問題点が含まれています。最も大きなものが、客観性がないということです。論文査読者は、その分野のエキスパートとして投稿された研究論文に対する意見を求められます。これは、言ってしまえば査読者の主観(=意見)になります。

敢えて言うまでもありませんが、ライフサイエンスの業界は実験およびその解釈に客観性が求められます。しかしながら、その集大成でもある研究論文の判断が主観によって行われているというのはどういうことなのでしょうか。さらに言えば、序列の非常に高い学術雑誌にある編集者による第一関門(Editor Rejectとなるかどうかの分かれ道)は、必ずしも投稿された研究論文の分野のエキスパートが担当するわけではありません。

もっと言えば、学術雑誌の編集者はもちろんのこと、各査読者は自分のところに回ってきた研究論文が誰が書いたかわかります。とすれば、そこには人間間(国家間も?)の好き嫌いというファクターも充分に入る余地があります。しかし一方で、研究論文の著者達には、誰が査読者となったかはわかりません。すなわち、査読者は反撃される心配なく攻撃が出来るということなのです。そして、そんな状況にいる査読者のコメントにより研究論文の雑誌掲載可否が左右されてしまうのが、現在のライフサイエンス業界なのです。

私は何も論文査読システムが悪だというつもりはありません。また、論文査読システムに変わる新しいシステムの案もありません。ただ、現在の論文査読システムには大きな問題点があるということを伝えたかったのです。

古今東西、問題点のあるルールでゲームが行われた場合、その勝敗はその問題点を熟知しているかどうかで決まってきました。我々がいるライフサイエンス業界ではどうなのか、この点を今一度考え直すべきなのかもしれません。


執筆者:ゲームマスター

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