研究者の声:オピニオン



2013年7月16日更新

留学先から給料をもらうことの意味

この文章を書いている今の自分は少し冷静ではないと思います。

しかし、アメリカでの研究留学も3年目になり、アメリカのアカデミア事情がわかるにつれ、優秀な日本人研究者がアメリカに良いように利用されているシーンに気がつくようになって「怒りにも似た感情」が自分の中に出てきました。

申し遅れましたが、自分は旧帝大の医学部出身で臨床を数年間行ったあとに大学院で博士号(医学)を授与されてから研究留学のためにアメリカに来ました。

研究留学の1年目は、自分にあまり基礎研究の経験がないという負い目もあり、無給での生活を余儀なくされました(日本の所属病院から給料と貯金を切り崩しながらの生活でした)。しかし、2年目はアメリカの所属研究室から満額で給与を獲得し、3年目の今は給与の増額を勝ち取りました。

自分の「怒りの感情」は、所属研究室からの給与の有無に直結しているように思います。私たちのような学位(MDでもPhDでも)を持っている人たちは「プロの研究者」であるはずです。すなわち、所属研究室で行った実験、もっと言えば研究成果、には相応の対価が所属研究室から支払われるべきだと思います。

にも関わらず、少なくない人数のポスドク(特に日本人)は所属研究室から給与を支払われていない現実があります。かく言う自分も、研究留学1年目は無給でした。

アカデミアという世界に関する事情は、この文章を読んでいる皆様方の方が詳しいかもしれませんが、アメリカの研究室から出された研究論文は、その論文のデータを出した研究者の国籍によらず全てアメリカの業績となります。

さらに言えば、所属研究室のPI(研究室のトップ、ボスと呼ばれることが多い)は、自分たちのようなポスドクが出した実験データを使って論文を出しているのに、その研究成果はほぼ独り占めすることになります。

もちろん、PIたちはポスドクよりも研究の経験も長く色々なことを知っています。また、英語ネイティブではないポスドクでは到底書くことの出来ないような素晴らしい英語論文を書く事もできます。

しかし、データを出すのはポスドクです。そのデータがなければPIは論文も書けないし、グラントも出せません。それなのに、出てきた業績はPIおよびアメリカが独占するのです。であれば、我々のような非アメリカ人ポスドクには、少なくとも働きに見合った給与くらいを出すべきなのではないでしょうか。

こちらで日本人の研究者コミュニティーに参加すると、表だけでなく裏も含めた様々なアカデミア事情を聞くことが出来ます。

どうやら、一部のPIの間では、日本人研究者は無給でも(もしくは満額を出さずとも)喜んで留学に来て、朝晩土日関係なく文句なも言わず働き、一定期間過ぎれば国に帰ってくれる非常に便利な働き手だというコンセンサスが得られているようです。

その中には、「日本人が英語が話せない」「日本人は上司に文句を言ってはいけない国民性がある」という日本人の性質までをも知った上で、敢えて無給もしくは格安で働かせているPIもいるようです。まさに「鴨がネギをしょって来た」と言った感じです。

しかも最も驚いたのは、そういう日本人研究者を「こき使う」PIの中には日本人のPIも含まれているようなのです。なぜ日本人が日本人を「奴隷(言葉が悪くて申し訳ありません)」のように使うのでしょうか。自分にはその気持ちが全くわかりません。日本から遠く離れた地ならば、なおさら日本人同士が手を組んで頑張らなければいけないのではないでしょうか。

自分のボスはアメリカ人です。研究の面では尊敬できます。ですが、1年目に給与を支払ってくれなかったこと(=敢えて「屈辱」と表現したいです)は今後も忘れることはないと思います。

ダラダラとまとまりのない文章になってしまいましたが、自分が言いたいことは2点です。

1つ目は、タダ働きのまま所属研究室のPIやアメリカに搾取され続けるのはストップしましょう、ということです。アメリカは日本と違い、多少ボスに強く言っても問題ありません。給与をもらっていない人は自分の働きをボスに理解してもらう努力をしましょう。英語が苦手でも、事前に準備をして理論武装すれば大丈夫です。事実、私も2年目の給与はそのようにして獲得しました。逆に言えば、自分から言い出さなかったら2年目も無給であったと思います。3年目の昇給も同じです。自分から言わなかったら決してPIからは昇給のことは言ってこなかったと思います。

2つ目は、言いたい事というよりも日本人PIへのお願いになります。アメリカのアカデミアという過酷な環境の中、自らのラボを持っている日本人PIに対して、多くの日本人研究者は憧れにも似た尊敬の気持ちを持っていると思います。そのため、日本人PIの下で働く日本人ポスドクは、通常よりもずっと頑張るのではないでしょうか。そういう人たちに対しては、仮に日本の所属先などから一部金銭的なサポートがあるからといって、無給ないしは安い給与で働かせるということは避けてもらいたいと思います。彼ら・彼女らの貢献に応じた給与を準備することは、長い目で見れば日本という国のためにもなるのではないでしょうか。

私の感情的な文章に最後までお付き合いいただきありがとうございました。最後になりましたが、このような機会を与えてくださったBioMedサーカス.com編集部の皆様にお礼申し上げます。

執筆者:Susumu Yamane MD, PhD

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