研究者の声:オピニオン



2013年12月23日更新

研究論文は学術雑誌の商品なのか

常日頃、研究者(特に自然科学系)の評価がCell、Nature、Scienceと言った学術雑誌に論文を掲載できるかどうかで大きく分かれることに違和感を持っていました。

そんなとき、ある新聞記事を目にしたので、思い切ってこれまでの自分の考えを文章にまとめてみました。まずは、その新聞記事を紹介します。

3科学誌は商業主義…ノーベル受賞者が「絶縁」

今年のノーベル生理学・医学賞を受賞した米カリフォルニア大バークレー校のランディ・シェックマン教授(64)が、世界的に有名な3大科学誌は商業主義的な体質で科学研究の現場をゆがめているとして、今後、3誌に論文を投稿しないとの考えを明らかにした。

 教授は9日、英ガーディアン紙に寄稿し、英ネイチャー、米サイエンス、米セルの3誌を批判した。研究者の多くは、評価が高まるとして、3誌への掲載を競うが、教授は「3誌は科学研究を奨励するよりも、ブランド力を高めて販売部数を増やすことに必死だ」と指摘した。

 その上で「人目を引いたり、物議を醸したりする論文を載せる傾向がある」との見方を示し、3誌が注目されやすい流行の研究分野を作り出すことで「その他の重要な分野がおろそかになる」と問題を提起した。

(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20131213-OYT1T00638.htm?from=ylist

自分の感じていたことがノーベル受賞者と同じだ、と主張するのは気が引けますが、シェックマン博士のセリフ「3誌は科学研究を奨励するよりも、ブランド力を高めて販売部数を増やすことに必死だ」や「人目を引いたり、物議を醸したりする論文を載せる傾向がある」や「その他の重要な分野がおろそかになる」は、これまで自分が思っていたことと同じでした。

これら雑誌の専属編集者たちは、自分たちこそが研究の流れを決めている、という自負を持っているということは、これまでに色々なところで見聞きします。しかし、それは傲慢な態度です。

本来であれば、学術雑誌(研究をしている当事者、つまりは研究者であっても)が、世の中の研究の流れというものを左右すべきではありません。学術研究とは世の中の役に立つものを、金儲けとは別の視点で取り組むべきです。だからこそ、研究の流れはその時々の時勢を自然と反映していくもので、少数の学術雑誌が決めていくものではありません。

もともと学術雑誌は、研究者が自らの研究成果を掲載するための場を提供するものでした。でも、今では一部の『ブランド力』のある雑誌が研究業界を牛耳っており、研究成果の善し悪しは、それら関係者の一存で決まってしまうという由々しき自体に陥っています。

研究の経験が少しでもある人であれば、自分が頑張って遂行してきた研究成果を論文にまとめてCell、Nature、Science(もしくはそれら姉妹誌)に投稿したのに、自らの研究分野とあまり関係のないEditorが自分の論文はReviewerに回す価値すらないとして1週間でリジェクトしてきた、という経験があるのではないでしょうか。

ただ、もちろん問題は学術雑誌側にのみあるのではありません。

我々研究者側としても、Cell、Nature、Scienceに代表される『ブランド力』のある雑誌に掲載された論文のみをありがたがって読むようになっています。そして、『ブランド力』のない雑誌に載った価値ある論文は見逃されるようになってしまっています。言い換えれば、我々研究者が論文の価値をきちんと理解できるような“目”を磨いておけば、自ずとCell、Nature、Scienceの商業主義に対抗できるようになるのです。

今後もCell、Nature、Scienceは自分らの『ブランド』を向上させるために、積極的に自らの都合の良い『研究の流れ』を作りだすでしょう。しかし、人工的に作られた流れなどは、本当に世の中が必要としているものとはかけ離れていることがあります。

研究にはお金も時間もかかるので、無駄な(=必要とされていない)研究に多くの研究者が関わってしまうのは、大きな目でみると我々人類にとっても損です。それを防ぐには、研究の現場にいる私たちのような研究者が、きちんと時代を理解し他の人の研究成果を評価し、何が今求められているかを判断できるようになることだと思います。

Cell、Nature、Scienceが絶対悪だというつもりはなく、それら雑誌に掲載された論文も素晴らしいのが多いことはわかっています。しかし、それでも現在のCell、Nature、Scienceのやり方には疑問を感じる事が多いので、ノーベル賞受賞者がそれら雑誌に苦言をしたタイミングで自分の考えも文章にしてみました。

私の意見に反論等が多くあると思いますが、この文章をきっかけに、Cell、Nature、Scienceが今の自然科学系の研究分野に与えている影響(良いことも悪いことも)を考えてもらえればと思います。


執筆者:目立たない研究者

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