研究者の声:オピニオン



2014年2月11日更新

「年俸1億円の研究者をつくること」&「第2、第3の小保方さんをつくること」は国が今やるべきことなの?

40代でも若手と言われてしまうような世界で、30歳の女性研究者がSTAP細胞という新たな万能細胞の作成方法を見つけたことは本当に驚くべき快挙だと思います。

そのため、日本のマスコミのある種お祭り騒ぎ的な報道も、ある程度は許容すべきかと思います。しかし、研究および研究者支援に関する国の取り組みまでもが、今回の小保方博士の登場によって変な方向に行くのはいかがなものかと思います。

まずは下記の読売新聞の記事を読んでみてください。

小保方さんの理化学研、年俸1億円の研究者も?

下村文部科学相は31日、新設する「特定国立研究開発法人」に、理化学研究所などを位置づける方針を示した。

同研究所は、細胞に強い刺激を与えて作製する新たな万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の開発にかかわっている。

独立行政法人の中から世界と競争できる「エリート研究所」を選定する仕組みで、優秀な研究者を確保するため成果に応じた高額給与を認める。閣議後の記者会見で明らかにした。

特定国立研究開発法人の候補としては理研のほか、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構が検討されている。文部科学省によると、国際的な研究評 価を処遇に反映し、制度がスタートすれば年俸1億円の研究者が誕生する可能性もあるという。来週開かれる予定の関係閣僚会議で最終決定する。

STAP細胞の研究については、同省が実施している再生医療の事業で支援することも決めた。下村文科相は「革新的な再生医療実現につながると期待 しており、ニーズに応じた支援充実を図りたい。若手や女性研究者が活躍しやすい環境づくりを支援し、第2、第3の小保方晴子さんが生まれるようにしたい」 と話した。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20140131-OYT1T00457.htm?from=main3

この文科省の動きは、小保方博士のアイドル的報道の陰に隠れて、それほど世間の目に触れていないようにも思います。事実、この記事に関するツイート数はそれほど伸びていません(ツイート数を世間の注目の絶対的な指標とするのは必ずしも正しくはないかと思いますが、それでも一つの指標にはなると思います)。

そこで、ここBioMedサーカスの場を借りて、この文科省の動きに関して、研究の現場にいる人間として意見を出していきたいと思います。もちろん、私自身の考えが絶対的に正しいとは思っていません。逆に、間違っている点を多々あると思っています。しかし、私の文章を読まれた方が、少しでも本問題について考えてもらえればと思って文章を綴りました。

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疑問点1:世界と競争できる「エリート研究所」?
国の施策はいつも曖昧なままキャッチフレーズだけは分かりやすいです。例えば、「大学院重点化」や「ポスドク1万人計画」などは私たちの分野では知らない人がいないくらい有名な施策ですが、その中身(計画)は杜撰で多くの高学歴難民を生み出しました。

今回の「エリート研究所」もイメージだけは浮かびやすいのですが、その実態はほとんど説明されないまま、無駄な税金だけが使われてしまうように危惧しています。そもそも「世界と競争できる」と言ってはいますが、何を目的として日本人研究者に世界と競争をさせるつもりなのか、文科省のエリートのお役人の人たちはわかっているのでしょうか?

今までに日本が世界に誇る研究成果を出したのは、それを成し得た研究者が有名な組織に属していたからではなく、彼ら彼女らが志の高い「エリート研究者」だったからです。「エリート研究所」なるものが、どの程度の規模を示すのかわかりませんが、研究所そのものが「エリート」などというものは、架空の物語の中にしか存在しません。

そもそも、文科省の言う「エリート」とは何を指すのかが曖昧すぎるのではないでしょうか。


疑問点2:年俸1億円の研究者?
そんなことが可能なのでしょうか?野球選手や芸能人が年俸1億円が可能なのは、彼ら・彼女らが収益構造が確立されたシステムの中で活躍しているからです。言うなれば、その業界にお金をきちんと出す人がいるからこそ、その業界で活躍する人に年俸1億円という金額を支払うことが出来るのです。

しかし我々のような研究者(特に基礎系)はどうでしょうか?私たちの給与は基本的には税金です。もちろん、私立の大学などでは学生による学費も大学研究者の給与となることもありますし、財団系からの寄付なども研究者の給与の一部となることもあります。

しかしながら、「特定国立研究開発法人」で働く研究者の場合、その給与はほぼ100%が税金となるでしょう。

山中博士が生物学の分野でノーベル賞を受賞し、それなりに日本の科学技術力の高さが一般に知れ渡ってきた現在でも、研究者(大学や国立研究機関)の給与は、同等の学歴を持って企業などに行った人よりも少ないのです。

またアベノミクスにより景気が上向きとなりつつあっても、未だに日本国の予算は厳しい状態のままです。そんな中、はたして年俸1億円の研究者が純粋に国家予算のみから生み出されるのでしょうか?もし仮に生み出されたとした場合でも、そのワリを喰うのは他の研究者ということになったりするのでしょうか。

給与が少ないから優秀な人が研究者にならない、という批判を解消するために、「年俸1億円の研究者を!」と言いたい気持ちは理解はできます。しかし、センセーショナルな取り組みだけに、結局中身を伴わないということになってしまうと、ますます研究者になりたい人が少なくなってしまうのではないでしょうか。


疑問点3:若手や女性研究者が活躍しやすい環境づくりを支援?
環境をつくるというよりも、なぜ若手や女性研究者が活躍できない環境にあるのかを理解するのが先ではないでしょうか?その阻害要因を取り除けば、自ずと若手や女性研究者が活躍できるようになると思います。


疑問点4:第2、第3の小保方晴子さんが生まれるようにしたい?
「2番じゃだめなんですか?」という発言が一斉に批判を浴びたのを記憶している方は多いと思います。我々の研究の世界では2番ではダメなんです。それなのに、「第2、第3の×××」というのを目指すことを国が推奨してはいけません。

そもそも、STAP細胞という画期的な発見が日本からなされた今、国がするべきことは、この取り組みを世界に先駆けて実用化することを支援することではないでしょうか。

STAP細胞はアメリカのハーバード大学が共同研究先となっています。アメリカはお金になることは動きが早いです。そして自分たちに有利なルールをつくって、それを世界標準だと言って利益を独り占めします。そのため、国が国益のためにすべきことは、彼らに先を越されないように小保方博士をサポートすることではないでしょうか。

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文科省が日本の科学技術を発展させるために尽力してくれているということは理解しており、常に感謝しているのですが、それでもやはり現場から見ると間違った動きをしているように感じることもあります。

失礼で無礼な意見だとは思いますが、私の文章が少しでも日本の科学技術の発展の役に立てればと思います。


執筆者:Ph.D.@R研

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