研究者の声:オピニオン



2014年2月16日更新

STAP細胞をめぐり交錯する著者らの狙い


ノーベル賞をもらうのは誰だ
小保方博士がSTAP細胞を発見し、大きな話題となっている。この研究により、もしかすると将来誰かがノーベル賞を取るかも知れないとまで言われている現状を考えると、この研究において誰がどのぐらいの貢献をしたのか、が気になるところである。

この研究についての論文は、Nature誌に2報同時に掲載された。いずれも、筆頭著者は小保方博士であり、ハーバード大学のVacanti教授と理研の共同研究となっている。論文1が、「酸処理により幹細胞を誘導できること」を示したもので、論文2は「論文1の方法により誘導したSTAP細胞が全能性を有すること(様々な種類の細胞へと分化できること)」を示したものである。小保方博士の会見によれば、幹細胞を誘導できることを示しただけでは、ジャーナルの査読者に信じてもらえなかったということなので、論文1、2共に非常に重要な内容である。

さて、これら2報の論文の筆者順、および責任著者(corresponding authors)は以下の通り。*がcorresponding authorである。


論文1
Haruko Obokata*
Teruhiko Wakayama
Yoshiki Sasai
Koji Kojima
Martin P. Vacanti
Hitoshi Niwa
Masayuki Yamato
Charles A. Vacanti*


論文2
Haruko Obokata*
Yoshiki Sasai*
Hitoshi Niwa
Mitsutaka Kadota
Munazah Andrabi
Nozomu Takata
Mikiko Tokoro
Yukari Terashita
Shigenobu Yonemura
Charles A. Vacanti
Teruhiko Wakayama*

いずれの論文においても小保方博士は筆頭著者かつcorresponding authorとなっていること、各種メディアの記事において小保方博士が直接取材を受けていることが圧倒的に多いこと(Nature Newsのサイト上では小保方博士へのインタビューの音声まで公開されている)、小保方博士が「最初は自分が所属する研究グループ内でも信じてもらえなかった」という主旨の発言をしていることから、この研究において小保方博士が最も重要な役割を担っていたことは明らかである。

問題はハーバードのVacanti教授である。小保方博士は、理研に入る前にVacanti教授の研究室に留学しており(ポスドクとして、あるいは大学院生として、期間は半年間、2年間などと情報が錯綜している)、その時にSTAP細胞の着想を得たとしている。ただし、その間に最初の論文原稿を投稿したときは却下された。その後、小保方博士は理研に移り、続きの実験を行って、最終的に今回の論文発表に至ったようである。普通に考えて、Vacanti教授もそれなりの貢献をしたのは誰も否定しないだろう。また、査読の際に、著者の所属機関がどの国にあるか、あるいは所属機関が有名なところがどうか、が採否に影響するということも、残念ながら事実であり、ハーバード大学所属のVacanti教授が共著者であったことが、掲載の決定にプラスに働いた可能性もある。

ところがこのVacanti教授の「この発見の主体は自分」アピールが必死すぎてすごい。小保方博士が会見をした後、このVacanti教授は早々に「ヒトでもSTAP細胞の作製に成功」とのことで細胞の写真を公表した。
http://sankei.jp.msn.com/science/news/140206/scn14020611540000-n1.htm
ただし、論文発表はまだで、現在確認作業中。

さらに、2011年からサルのSTAP細胞で脊髄損傷治療の研究を始めているということも公表。
http://www.47news.jp/47topics/e/249910.php
ただし、論文発表はまだ。でも「驚くべき成果が得られている」とのこと。

この通り、いずれも論文発表はまだなのだ。にもかかわらず「いい成果が出ていること」を急いで公表している。

生物学の研究者なら誰でもわかることだと思うが、この分野では、きちんと論文発表して初めて成果として意味がある。Preliminaryな結果だけで、「自分が最初にこの発見をした!」と言うことはできないのだ。にもかかわらずここまで慌ててまだ研究途上の成果を公表するのは、露骨な「自分が本家」アピールである。

また、1月30日のBBCによるインタビューの中で、
「2001年に論文をまとめたときは、読んだ人たちに批判された。およそ10年間にわたり、この研究を続けてきたので、驚いたというよりもほっとしたという感じだ」
「私たちの手法を使えば、簡単かつ単純な方法で万能細胞を作製できる。研究成果が実用化されれば、治療を受ける人の経済的な負担を減らすことになるだろう」
「強いストレスにさらされたり損傷したりすることで、分化した細胞の運命が劇的に変わることが示せた。この成果は、ES細胞やiPS細胞とは異なる可能性を秘めている」
「今回の成果は日本とアメリカの研究機関の協力がなければ実現しなかった」
などと述べている。

ミスリーディングがすごすぎてどこから突っ込めばいいのかわからないのだが、まず、「2001年に論文をまとめたときは読み手に批判された」として、まるで2001年の時点(小保方博士が留学するよりも前)で自分たちは既にこの発見をしていたかのような印象を与え、「10年にわたりこの研究をしてきた」として、自分のこの研究における歴史の長さを強調。しかし、10年前の時点では、査読者を納得させるだけの実験結果は示せていなかったわけだし、肝心の「弱酸性の液に浸ければ幹細胞になる」ということはpreliminaryな発見すらされていなかったはず。
「今回の成果は日本とアメリカの研究機関の協力がなければ実現しなかった」は、小保方博士側が言うことであって、今回のケースでVacanti側がこれを言っても必死さが強調されるだけだと思うのだが。

普通に考えて、今回の大発見には小保方博士が中心となって貢献したことは間違いない。また、Vacanti教授の貢献もあったということも、誰も否定しないだろう。ただし、Vacanti教授がどうあがいても、「Vacanti教授が中心となって貢献しただけで小保方博士はただ実験を遂行しただけだ」とは、誰も思わないだろう。

また、繰り返しになるが、生物学の分野では、実験をして証明して初めて、仮説を証明できる。「自分はこの研究をもっと前から始めていた」とか「こんな結果が出ている(でも論文発表はまだできない)」とかいうのは、誰かが論文発表した後で、「俺もそう思ってた」と言っているのと同じである。

小保方博士の会見以来の、Vacanti教授のpreliminaryな研究結果の公表は、まだ証明できていないことをまるでもう証明できたかのような印象を与えて結果的に自分がこの研究の本家であるというイメージを作り、後にノーベル賞の受賞候補にSTAP細胞が選ばれそうになった暁には、何とかしてノーベル賞をかすめ取ってやろうという意図しか見えない(と言っては言い過ぎかもしれないが)。


新展開
さて、ここにきて、件の小保方博士の論文に不自然な画像が使われている、などという指摘がなされており、理研が調査を開始したという。追試が簡単な実験系であるだけに、まさか捏造だということはないと思いたいが、仮に捏造であったとしたら非常に残念であると同時に、Vacanti教授がどう出るかは見物である。また、「あなたは数百年にわたる細胞生物学の歴史を愚弄している」と述べた査読者が、自分は正しかったと名乗り出たりするのだろうか。


執筆者:金魚ときどきフグ

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