海外ラボリポート
Tweet志賀隆 博士 〜米国マサチューセッツ総合病院から(2012年01月05日更新)
患者安全と医学教育 -高性能マネキンによるシミュレーション-(1ページ目/全4ページ)
私は現在、マサチューセッツ総合病院救急部のスタッフとしてレジデント指導しながら診療をしつつ、病院とハーバード大学医学部にてシミュレータを使って教育・研究をしています。
今回、欲張って三つのトピックについてお話したいと思います。
1) 医学教育とシミュレーション
2) 患者安全とシミュレーション
3) ERで働く救急医について
1) 医学教育とシミュレーション
臨床医になるために医学部に入った私を待っていたのは基礎医学の洗礼でした。医学部に入学するにあたり絶対的に必要な生物を選択せずに物理と化学にて受験した甘い戦略もあったかもしれません。いきなり分子の世界の話になり取り残されたような気持ちであったことを今でも覚えています。ただ単に勉強とやる気の不足だけでなく、臨床医になろうとして医学部に入ったところに、病歴・診断・治療というところからは遥かに離れたところで3-4年過ごすということで驚いたのもあったと思います。何だか自分の中で消化できないところがありました。
臨床医学においても、ときに教員が自身の研究内容に傾倒し、必ずしも医学生に診断や治療の基礎を伝えていないという印象がありました。その頃読んだ赤津晴子先生の「米国の医学教育」という本にハンマーで頭を叩かれたショックを受けました。米国の医学教育は、入学直後からどうしたらよい臨床医になれるかということに非常に大きなフォーカスが置かれており、教員の講義内容も彼らの自身の研究内容ではなく学生が臨床医になるために何が必要かということが強調されていました。その後、英国への短期留学・米国海軍病院での実習を経て、「卒業したら米国にて研修を受ける」という思いは強くなりました。
とはいえ簡単に道は開けず、卒後5年目にメイヨークリニックにて救急医学の研修を開始。レジデンシー中に高性能マネキンを用いたシミュレーションによる医学教育を体験し、その奥深さと教育効果に感動しました。日本の医学部ではなかなか実践的な臨床医学の教育がないままに医学生は病院での実習へ参加するようになります。そしてそこでの実習はあまり説明のないまま見学中心です。起こっていることを見ながら自学自習という学習が中心となります。医学生がチームの一員として扱われる米国の実践式の教育とは大きく異なります。このような状況から、学生が実践参加する実習が困難な日本の現場、研修医が十分な手技経験や指導の無いまま手技を行うことがる状況、これらの問題を解決しつつ患者安全を保つことのできるシミュレーションこそ、日本の卒前・卒後教育を変える鍵になりうるものと思い、現在の職場におります。