海外ラボリポート



志賀隆 博士 〜米国マサチューセッツ総合病院から(2012年01月05日更新)

患者安全と医学教育 -高性能マネキンによるシミュレーション-(2ページ目/全4ページ)

ハーバード大学医学部では、医学部入学後の第一週にバイタルサインの測り方、簡単な解釈の仕方、そして胸部の聴診について学びます。午前中にバイタルサインについて学んだ学生は午後に患者を診ます。

その患者とは内科や救急医学のスタッフ医師に操られた高性能マネキンです。症例は、喘息・気胸・前壁梗塞・下壁梗塞の4症例です。教員は学生をモニターでみながら患者役を演じます。そして色々と助け舟を出しながらケースを経験させます。

ケースが終わるとみんな着席し、リラックスした雰囲気の中で問診・診察・鑑別診断・解剖・生理・病理などを現役の臨床医と小グループにて議論しながら学んでいきます。講義室の後ろの方でリラックスしながら学ぶのと、シミュレーションを通して少人数で学ぶのでは、学生の参加の度合いや感情の高低が大きく異なります。実際の医療現場では講義室の後ろでリラックスして座れるわけではなく、患者を目の前にして真剣勝負なわけですから学生時代の学びの機会もそれに即すことでより現実的且つ効果的な学習方法となりえます。

このように、Kolbの「経験から学ぶ」ということを実践しているのが高性能マネキンによるシュミュレーションであり、参加型のディスカッションによりディブリーフィングにて学習者中心の学びを促進するスタイルです。

かなり早い段階で高レベルの内容に暴露されているようですが、私のフェローシップのディレクターであるDr. James Gordonらは高校生に同レベルのケースを経験させて、その後ハーバード大学医学部にもそのプログラムを提案し受け入れられたそうです。医学生たちは、呼吸器学や消化器学、薬理学などでもシミュレーション患者を診療したうえで、その後に関連項目を勉強します。

2) 患者安全とシミュレーション

医療現場でヒヤリ・ハットや過誤が生じた場合、それを前向きに解決していくことが必ずしも簡単にできるわけではありません。MGHのシミュレーションチームは、まず協力する科の問題を認識し、それに対する解決方法をともに検討します。

そして対応案が決まったところで終わるのではなく、さらにシミュレーションという生きた教育の場を提供することで、より現場に生かされる機会を提供しています。

「少ないお金で高度で安全な医療を」という難しい要求のある日本の医療現場ですが、患者安全には時間と費用と手間がかかることを国民の皆様にご理解いただき、患者安全のためのシミュレーションが日本にて広まることを願っています。

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