海外ラボリポート
Tweet常木雅之 博士 〜米国イェール大学から(2012年01月16日更新)
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気がつけば、2回目の冬である。北米東海岸の冬は厳しい。サマータイムが終わり、晩秋になれば、日は瞬く間に落ち、真冬になれば、刺すような寒気で表情筋がこわばる。しかし、ひとたび晴れると、空は澄み渡り、歴史あるキャンパスを美しく照らす。
(写真1:イェール大学医学部)
2012年7月より米国イェール大学医学部病理学分野で研究を開始した。日本での大学院博士課程最終学年の夏だった。私は、新潟大学口腔病理学分野の朔敬教授のご指導のもと、腫瘍細胞動態に関与する細胞外基質の研究を継続してきたが、腫瘍空間を規定する間質形成(誘導)機構を理解するために、朔教授にご紹介をいただき、微小環境形成機構をご専門とするJoseph Madri教授のもとで研究をさせていただける機会に恵まれた。
基礎研究を自分の生業にしたいと考えた頃から、自分が読んでいる興味深い論文の著者(海外)は、どのように考えて、どうやって議論して、どのように実験を進めているのかに興味があった。米国などから発表されている論文の著者名を見ると、明らかに多国籍の研究者が集合している様子が伺われ、いったいどの様にして研究が展開されているのかを垣間見たいと思った。本原稿依頼を頂いた時点で、既に1年半以上、米国に滞在していることになるが、学生の時にこのような興味を抱いたのは、私が日本でしか生活したことがなかったことに起因していると気が付くまで時間はかからなかった。
多国籍の研究者が集まることは、アメリカの様な国では当たり前であり、周りを海で囲まれており全人口の殆どが純粋な日本人である日本が特別な環境であったということは目から鱗であった。同時に、最も大切なことは、異なった専門性を持った研究者が集合して、気軽に共同研究を行い、研究をさらに面白いものにしていくという好循環を作ることだと学んだ。
たとえば、私のいる病理学分野では、もちろん病理医もたくさんいるが、理論生物学やコンピューターサイエンス、基礎生物学・物理学など、本当に多分野にわたる専門性が集合しており、自分の持っている知識では到底解釈不可能なことでも、相談できる専門家がおり、さらに視野を他のDepartmentに移せば、研究の困りごとは、ほぼ全て解決できるように思う。加えて、先端機器などは、共同利用させていただける場合が多く、必要なものは、周りの研究者に相談すると、どこかに必ずある。実験機器よりも、相談できる研究者の方が遥かに貴重であることは明らかだが、総じて、研究を円滑に発展させるための網の目の様なシステムが確立されており、研究者を研究に専念させるための環境を保ち続けようと大学が努力している。
病理学分野では、毎週火曜日の朝に、全てのラボの研究者が参加する研究発表会がある。病理学分野だから、当然、腫瘍を研究しているラボは多いが、ある時には、発表内容の殆どが、数学であったりする。難しすぎて理解に至らないのだが、自分の研究とどこかでつながりそうな気がして、面白い。