海外ラボリポート
Tweet平野有沙 博士 〜米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校から(2015年10月7日更新)
留学先の候補はいくつかありましたが、諸々の事情によりサンフランシスコに決め、学位をとってすぐDr. Louis Ptacekにコンタクトをとったところ「前にセミナーをしたからインタビューはいらない」と快諾してもらえました。それから奨学金の申請をして、ビザをとり、家を決め、スーツケース1つでアメリカにやってきました。正直、車の運転のできない筆者にとってスーツケース1つは少なすぎましたので(買い出しをいっぺんにできないから)、せめて2つの方が良いかと思われます…。
アメリカの生活@研究室
カリフォルニアの気質なのかわかりませんが、とにかく日本人を含めてみんな優しくて親切です。実験を開始するにあたって必要な手続きに関しても、日本にはなかなかいないラボマネージャーがなんでも面倒を見てくれます。サンフランシスコは特に研究者の入れ替わりが激しいようですが、生活のセットアップや研究のスタートに関して特に大きなトラブルなく始められている人がほとんどでした。
来る前はどのように研究テーマが設定されるのか未知数でしたが、最初の頃はボスも頻繁にディスカッションの時間を作ってくれますし、ちょうどトレーニングやらなんやらで2,3週間は実験ができないので、その間じっくりとテーマについて考える期間がとれます。私の場合は日本でも体内時計についての研究をしていたので、とりあえず最初は自分の得意なところから、と思い家族性睡眠障害の原因と思われる手つかずの変異を選んで解析するところから始めました。その変異が、どのようなメカニズムでタンパク質の機能を変えているのか、そしてその結果何が起こるのかを明らかにすることで「何が睡眠のタイミングと量を決めるのか」を分子生物学的に解析しています。面白いのは、ときどきNatural Short Sleeper (NSS) やFASPSの家族がインタビューに来ることです。彼らの話を聞いていると、単純に睡眠位相が変わっているだけではなくて性格やライフスタイルにも特徴があるようでなかなか奥深いです。マウスやハエの順遺伝学では見えないことを見て日本に帰れたら良いなと思っています。
基本的には1週間に1度ボスとミーティングをして、データのディスカッションをしたり世間話をしたりしています。ご自身も台湾から来て英語で苦労した過去があり、女性研究者同士ということもあり、プライベートな話題も多くボスとポスドクの関係が近いと感じます。中には、ボスが世界中を飛び回っていて、ディスカッションする機会が全くとれないというラボもあるようですが、個人的にはボスと話す機会がある程度もてることは研究を進める上で重要だと感じます。
研究室で日本とは違うなとよく感じることは、やたらと褒めてくれることです。両ボスに限らず、ポスドクの仲間にもセミナーが終わればプレゼン良かったね!と褒められますし、セミナー中も基本的にネガティブなことは言われず、どうしたら実験系を改善できるか、これからどういう実験が必要か、に重点が置かれます。日本にいたときに、プレゼンターがもっと前向きになれるようなことを考えて発言すれば良かったと反省するほどです。
一方で、厳しいときは厳しく、特にお金が絡むとどうしようもありません。私が留学してから独立も含めてラボのポスドクが4人も去り、今は7人のポスドクが働いています。2,3年前には20人ほどいましたが、気に入らないまたはお金のかかるポスドクを次々にリストラした結果だそうです。今のラボに限らずどうやって給料を持ってくるか、は永遠の課題です。特に日本では、一旦留学してしまうと応募できる奨学金が限られるのでよく調べてから留学することをおすすめします。