研究者インタビュー
Tweetハーバード大学医学部 荻野周史 博士(2012年01月16日更新) 6ページ目/全7ページ
癌の分子病理疫学(Molecular Pathological Epidemiology, MPE)の面白さ、と癌の個別化予防・個別化医学(Personalized Prevention and Personalized Medicine)における革新的役割について
Q. 新しいことを始めると色々と批判してくる人もいたのではないでしょうか?
「批判される人間になれ」という言葉を前に聞いてなるほどと思いました。これは人間、何かいい仕事をしていれば、必ず批判されるということを意味します。例えば、「誰それの研究はたいしたものではない」とかいう批判です。立派な仕事をしている人は必ずこんな風にたたかれます。昔から言っても、立派な業績をあげた作曲家、画家、科学者で、ボロクソに批判されたことのない人はいないのではないでしょうか。それも革命的な仕事であればあるほど、よけいに批判されるものです。本当にいい仕事をしていなければ、誰も話題にもしません。みなさんも自分の仕事への批判が聞こえてくるようになれば本物と考えるといいでしょう。
Q. 米国ではプレゼンテーションが上手な研究者が多いと伺いましたが、効果的な講演を行うコツのようなものはありますか?
講演というのは、聴衆に知識を伝達するために行うものです。それは、招待講演でも、学会発表でも、仕事の面接の一部(いわゆるジョブトーク)でも同じです。一般的にいって、講演で聞いたことの5%かそれ以下しか記憶に残らないと言われています。実際、実験の方法やデータの詳細をたくさん見せられても消化不良になりがちです。講演では実験の結果に重点をおくのではなく、自分のScienceや独創性を話しましょう。苦労した実験や結果の出た実験はつい多めにみせたくなりがちですが、こらえましょう。私の聴衆としての経験から、実験の結果は少なければ少ないほど、いい講演だと断言できます。
講演を準備するにあたっては、まずどういう聴衆が来るかを考えます。自分でわからなければ、講演を依頼した人に講演の目的と聴衆について聞くのは鉄則です。講演では特に最初の研究の背景(Background)の説明が参考になることが多く、この部分をわかりやすく、しかも重要性をいかに強調できるかが大事です。大事な結果や結論は何回でも何回でも繰り返し強調します。文字通り聴衆に刷り込むのです。結論の文が多すぎると逆に聴衆の緊張がつづきません。本当に覚えてほしい結論にしぼるのが得策です。スライドを作るにあたっては、言葉を羅列するよりは、いかに簡単な図でおきかえられるかを常に考えます。スライドの字には必ず、大きなArialかそれに似たFontを使います。Times New Romanはスライドにはむいていません。カラーは使いすぎずに、効果的に使います。
講演を聴いていて気になる講演者のくせとしては、まず、ポインターがいつもスライドにむけられていて安定せず、ふらふらしているというのがあります。ポインターは要所で効果的に使うべきです。それから、声のトーンがいつも上がり調子で文が終わる人がいますが、決してまねをしないようにしましょう。
講演は最初は誰でも、緊張して、あがってしまうものです。ラボのミーティングなど、小さい集まりで積極的に場数をふむしかありません。講演する内容に限っていえば、自分が世界で一番の専門家だと、自信をもつことをお勧めします。
Q. 日本の若い研究者の中には、どうやって研究者としてのキャリアを積んでいけば良いか分からない人も多くいるようです。そのような人たちへのアドバイスをお願いできますか?
米国における研究者のcareer pathの大きな特徴は、自分のMentorを自分で自由に選べるということです。そして例外なくMentorの存在がCareer Developmentに大きく影響します。もし自分のボス・Mentorが気に入らなかったら、どこか別の研究室・研修プログラムに行くべきなのです。前述のように私も渡米後数年は何度も研修する施設を換えていましたが、行く先々でとてもいいMentorにめぐり合って、自分のCareer Developmentをどうするか、Mentorとはどうあるべきか、について学びました。Mentorとは必ずしもボスとは限らないのがおもしろいところです。例えば、長時間にわたって直接指導していただいたわけではない脳外科医の福島孝徳先生からも私は精神的に非常に大きな励ましをいただきましたので、私にとってはたいへんいいMentorだったということになります。
米国には良いMentorをつくる伝統があります。米国で活躍している研究者の多くが、自分がMentorに世話になってここまで来ることができたから、今度は自分がいいMentorになって、若い研究者を指導しようと自覚しているからだと思います。私自身も恩人というべきMentorsがPittsburgh、Cleveland、Philadelphiaと今まで過ごした先々にいましたし、今のBostonにもいます。自分自身もいいMentorになるべく努力しているつもりです。
実際良いMentorに巡り会う、良いMentorになる、というのが努力なしで、誰でも簡単に出来るという訳ではありません。良いMentorに巡り会うためには自分自身がいつも行動する必要があります。「与えられた職場で全力を尽くしていれば、必ず助けてくれる人が現れる」というのは私の確信です。これは私自身が、アメリカに来て色々な病院で研修を積むうちに経験したことです。まず与えられたことを全力でこなすことがいちばん大事で、それから現状の問題点を考えて、解決策を模索するのですが、その過程において、不思議と良いMentorに巡り会うことができます。つまりは自分で努力して、現状の打開策を模索していると、不思議と優れたMentorが現れて、正しい方向に導いてもらえるようになるのです。「いい仕事をする」「いいMentorを持つ」「いいMentorになる」というこの3つはほんとうに複雑に因果関係として絡み合って、いいCareer Developmentにつながっていくはずです。