研究者のためのライフハック的思考術



第3回(更新日:2013年11月4日)

Getting things done(物事を終わらせる)という考え方

「研究者のためのライフハック的思考術」というタイトルの連載の3回目です。この連載では、研究者としてのキャリア構築を効率よく進めるには、どのようにライフハック的な考え方を実践するかを考えています。

今回はDavid Allenが提唱したGTDという仕事術に関して紹介します。GTDはgetting things doneの略で、Davidの著書「Getting Things DONE - The Art of Stress-Free Productivity」にその内容が詳しく説明されています。GTDはライフハックの世界では最も有名な仕事術の一つで、Davidの著書は日本語にも翻訳され、GTD愛好者は日本国内にも大勢います。

GTDは、やらなければいけないと思っている仕事を全て紙に出してリスト化し、頭を空っぽにした状態で仕事に取り組めるようにするものです。そのため、GTDはストレスフリーの仕事術と言われています。

以下にGTDの方法を示します。必要なものは「レターサイズ大の用紙10枚程度」「ボールペン」「スケジュール管理に使っているもの(手帳など)」「誰にも邪魔されない時間(最低1時間半。3時間以上が望ましい)」の4つです。


ステップ1:Collect(収集)
「やらなければいけないこと」や「気になっていること」を紙に書きます。仕事に関係することはもちろんのこと、プライベートなことも含め、頭の中にある少しでも引っかかることを全て書き出します。これ以上書くことがないという状態になっても、最低1時間は費やす必要があります。

ステップ2:Process(処理)
書き出した項目を「Trash」「Someday/maybe」「Reference」「Projects」「Waiting」「Calendar」「Next actions」「Do it」の8つに分類します。分類方法は以下のフローチャートに従い、書き出したもの全てについて一つずつ行います。

Q1. 行動をすぐに起こすべき事柄か?NoならQ2へ。YesならQ3へ
 Q2. Trash(自分には必要のない事柄:二度と考えなくてもよいもの)」「Someday/maybe(そのうちやろうと思っている事柄)」「Reference(資料的なもので覚えている必要はあるが行動を起こさなくても良いもの)」のいずれかに分類する。
 Q3. 次に起こすべき行動は何か?複数の行動が必要な場合は「Projects」の項目へ分類。一つの行動で仕事が完了する場合はQ4へ。
 Q4. 2分以内に完了できるものか?Yesの場合は「Do it」に分類するとともに今すぐに終わらせる。Noの場合はQ5へ
 Q5. 自分でやるべきことか?Yesの場合はQ6へ。Noの場合は「Waiting(他人からの返事を待つ事柄)」の項目へ分類。
 Q6. 特定の日時に行うべきか?Yesの場合は「Calendar」の項目へ、Noの場合は「Next actions」の項目へ分類。

以上のようにして、ステップ1で書き出した全項目を8つに分類します。しかし、「Trash」と「Do it」のタスクは仕事が終わった状態にあるので、手元には「Someday/maybe」「Reference」「Projects」「Waiting」「Calendar」「Next actions」の6項目に分類された事柄しか残っていません。

ステップ3:Organize(整理)
上記のようにして分類したものを、スケジュール管理に使っているツール(手帳など)に移します。「Calendar」に分類された事柄は、それを実行する日時を決めて手帳などに記入します。その他の項目は、分類に使った用紙をそのまま手帳に添付するという形式でも構いませんが、個人的には改めて手帳などに清書することをお勧めします。

ステップ4:Review(見直し)
初回はスキップして構いません。2回目以降となる週次レビュー(ステップ6参照)では、「Someday/maybe」に入っているもので「Projects」「Waiting」「Calendar」「Next actions」のいずれかに移すべきものがないかを見直します。また、「Projects」の項目では自分が行うべき事柄を具体的に考え、次に行うべきものを「Calendar」「Next actions」に加えます。さらに、「Next actions」にあるもので「Calendar」に移せるものがないかを検討します。

ステップ5:Do(実行)
自分のスケジュール帳に沿って振り分けられた仕事を実行します。

ステップ6:Weekly Review(週次レビュー)
原著では1週間に(最低)1回は上記ステップ1から5を繰り返し行うことを奨励しており、このWeekly ReviewこそがGTDで一番大事なステップだとされています。このことにより、自分がやらなければいけないと思っているものが常にリスト化されている状態を維持できるため、ストレスのない状態で今まさに自分が行っていることに集中して取り組めると原著では説明されています。


GTDで大事なことは「全てを紙に書き出す」ということです。それにより頭が常にクリアな状態(脳内RAMの空き容量を最大化)を保ったまま仕事ができます。GTDの方法は複雑に見えますが、実践するのはそれほど難しくありません。

ただし、GTDを最初に行うときは、ステップ1(頭の中にあるものを全て書き出す)に時間がかかるので合計で3時間くらいの時間を確保しておくことをお勧めします。しかし、2回目以降(週次レビュー)では30分〜1時間もあればステップ1から4までは確実に終わります。

さて、ストレスフリーの仕事術として世界中に愛好者のいるGTDですが、実はこの方法は完璧な仕事術ではありません。むしろ、アカデミア研究者(特に実験系分野の学生やポスドク)とは相性がそれほど良くありません。

GTDのフローチャートにおいて、複数のステップが必要なタスクは「Projects」の項目に分類されます。そして、そこにリスト化されたタスクはReviewのときに見直され、次にするべき行動が明らかとなった時点で「Calendar」もしくは「Next actions」に移され実行されます。しかし、実験系ラボで働いている研究者の場合、全ての実験(特にルーチン化されているもの)の全行程を常に紙に書き出してから実行することは困難です。

また、GTDは頭の中に留まっているタスクを文章化し実行することに重きを置いています。そして、それらタスクに優先順位をつけることは推奨しておらず、出来る仕事をひたすら片付けることが良しとしています。

しかし、そのような状況では「重要ではないけれど緊急のタスク」が「重要だけれども緊急でないタスク」よりも優先されやすく、結果として研究者のキャリア構築に必要となってくる内容(重要だけど緊急でないタスクのことが多い)に取り組めない恐れがあります。

とはいえ、GTDは完璧ではないからこそ世界中で支持されていると言われることもあります(完璧ではないからこそ、自分なりの改良法を入れる余地がある)。そのため、GTDを自分なりにカスタマイズすることで、自分独自のGTDを作りあげれば良いのかもしれません。私自身も原著で説明されているGTDの方法を改変したものを数年前より活用しています。

GTDは欠点のある仕事術ではありますが、ライフハックの分野では今も広く支持されています。そのため、少しでもライフハックに興味のある方は、1ヶ月だけでもGTDを試してみてはいかがでしょうか。特に「頭の中にあるものを全て書き出す」と「週次レビュー」はオリジナルの方法でも充分に役立つと思います。

次回はTimothy Ferris「The 4-Hour Workweek - Escape 9-5, live anywhere, and join the new rich」という書籍を紹介します。こちらもライフハックの世界で非常に有名な本です。しかし、その仕事術の根底にある考え方はGTDとは全く異なるもので興味深いです。どうぞお楽しみに。


本記事は2010年~2011年に北米東海岸の研究者ネットワークJaRANのメールマガジンで連載されていた記事を転載したもので、記載してある内容は連載当時の情報となります。

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