研究者のためのライフハック的思考術



第4回(更新日:2013年11月11日)

無駄な仕事は切り捨てる

「研究者のためのライフハック的思考術」というタイトルの連載の4回目です。この連載では、ライフハック(人生/仕事を効率化する)という考え方がどのように研究者のキャリア構築に活用できるかを考えていきます。

今回は、Timothy Ferris著の「The 4-Hour Workweek - Escape 9-5, live anywhere, and join the new rich」という書籍を紹介します。前回で紹介したGTDは「頭の中にあるタスクを全て紙に書き出し、頭をクリアにした状態で書き出したタスクを片っ端からこなす」という仕事術でした。しかし今回の4-Hour Workweek(1週間に4時間しか働かない仕事術)では「自分が行うべきタスクを極限まで削り、自分にとって本当に必要なタスクしか行わない」ということに焦点が当てられています。

著者のTimothy Ferrisは、自分のタスクを極限まで削り必要なタスクのみを行った結果、表題の「1週間に4時間しか働かない(4-Hour Workweek)」となったようです。しかも本人が言うには、そのことによって週80時間労働で年収4万ドルだったのが、週4時間労働で月収4万ドルにもなったということです。

もちろん現実問題としては、我々のような研究者が週に4時間しか働かないようにすることは不可能に近いです。しかしながら、この著書にある「自分が行うべきタスクを極限まで削る手法」には見習うべき点が多く含まれています。とはいえ、多くの日本人(特に日本で高等教育を受けている人々)は、タスクをこなすための訓練は充分に受けているものの、タスクを削るための方法論は教えられてこなかったと思います。そこで今回は、本書の前半で紹介されている「タスクを削る仕事術」がどのようなものかを見ていきます。

本書では、タスクを削るために知っておくべき必要なルールを2つ紹介しています。

1つ目のルールはPareto's Law(Pareto Distribution)というものです。これは「全体の数値の大部分は、それを構成する一部から生みだされる」という説です。もともとは経済の分野での話だったのですが、その考え方は少しずつ拡大解釈をされていて、今では「80/20 Principle(80:20の法則): 80% of the wealth and income was produced and possessed by 20% of the population」という形で、様々な分野でこの法則が利用されています。

本書では、この法則を利用して「自分が抱えている問題や不幸さの80%を引き起こす20%の要因は何か?」や「自分の望む結果や幸福さを生み出す20%の事項は何か?」を良く考えることを推奨しています。そして、その20%(自分が本当に必要とするもの)に自分のリソース(時間や思考)を集中させるべきだと説明しています。

著書は起業家なのですが、彼がこの法則を意識してから行ったことの例として「95%の歳入を生み出す5%の顧客のみに専念した」ということが挙げられています。この著者の行動で特筆すべきは「必要な5%の顧客を選び出した情報収集&解析の客観的な緻密さ」と「残り95%の顧客を切り捨てた大胆さ」にあります。多くの人は自らのことを解析するときに客観的な視点を失いがちです。また、大抵の人は「変わることを選択する」よりも「不幸な現実を受け入れ続けたがる」ものです。

さて、自らのタスクを削るために必要なルールの2つ目として紹介されているものは、Parkinson's Lawと呼ばれるものです。これは「タスクは割り当てられた時間いっぱいまで膨張する」という現象です。つまり、ある仕事があった場合、その期限が24時間でも1週間でも2ヶ月でも、その仕事が完成するのは常に期限ギリギリになるということです。しかも興味深いことに、多くの場合は、いずれの期限でも仕事の完成度に大差はありません(むしろ短い期限の方が集中して行うため完成度が高いことがある)。

そのため、この現象と先に示したPareto's Lawを組み合わせると「自分に必要なタスクを見つけ出し(Pareto's Law)、そのタスクの期限を短めに設定する(Parkinson's Law)」ことによって、今までと同じアウトプットを生み出すために自分が費やす時間を限界まで短縮できるということになります。

著者は本書を通じて「無駄な仕事はするな/長時間働くことを重要視するな」ということを徹底的に説いています。しかし、この考え方は「自分に与えられた仕事はソツなくこなすべき/一生懸命にひたすら働くことは善」という価値観を与えられてきた一般的な日本人研究者にとっては受け入れにくいものかもしれません。

むしろ、こういった考え方に嫌悪感を示す方が出てきても不思議ではありません。しかしながら、少しでも4-Hour Workweekというスタイルに興味があれば、これを機にPareto's LawとParkinson's Lawの法則を念頭に置いて、自分が行っているタスクのことを考え直してみると良いかもしれません。特に、「必要な仕事」と「無駄な仕事」を分けることは重要です。以下は、そのために有用であると本書で紹介されている質問です。

Q1. If you had a heart attack and had to work two hours per day, what would you do?

Q2. If you had a second heart attack and had to work two hours per week, what would you do?

Q3. If you had a gun to your head and had to stop doing 4/5 of different time-consuming activities, what would you remove?

Q4. What are the top-three activities that I use to fill time to feel as though I've been productive?

Q5. Learn to ask, "If this is the only thing I accomplish today, will I be satisfied with my day?"

Q6. Put a Post-it on your computer screen or set an Outlook reminder to alert you at least three times daily with the question, "Are you inventing things to do to avoid the important?"

さて、前回と今回は2回連続で英語の書籍を紹介したので、次回は日本語の書籍を紹介しようと思います。取り上げる書籍は「朝30分の掃除から儲かる会社に変わる(小山昇著)」です。この本はビジネス書/自己啓発書に分類されるものですが、ライフハック的なやり方に通じるノウハウが多く含まれています。どうぞお楽しみに。


本記事は2010年~2011年に北米東海岸の研究者ネットワークJaRANのメールマガジンで連載されていた記事を転載したもので、記載してある内容は連載当時の情報となります。

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