読書感想文:「ポストドクターの正規職への移行に関する研究」を読んで



その4(更新日:2014年07月21日)

風説の流布

文部科学省に属する科学技術・学術政策研究所が2014年6月5日に「ポストドクターの正規職への移行に関する研究(http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads /NISTEP-DP106Fullj.pdf)」を公表しました。

この研究によると、ポスドクの正規職への移行は平均で年6%強(男性で7%前後、女性だと4%代)であり、この数値は大卒のそれよりも大幅に低いようです。

ポスドクを取り巻く環境は劣化の一途を辿っており、残念ながら、我々の業界のみならず一般の方の間でも、「ポスドクになってしまったら悲惨である」というコンセンサスが得られてしまっています。事実、『高学歴ワーキングプア』なる単語が書籍やテレビなどにも何度も登場しており、ポスドクという職に就いているものは、それこそ「将来の見えないフリーター」と同義のように論じられることすらあります。

今回の科学技術・学術政策研究所によるポスドクに関する報告書は、これらポスドクという職種に就く人間の「先行きの暗さ」を数値で表したもので、「ポスドクの悲惨さ」をある意味で国が認めた形になったとも言えます。

しかし、この報告書を詳しく読んでいくと至る所に矛盾点や疑問点があることに気づきます。

ポスドクの実態を調査し、それを公表することは、現在の「ポスドク問題」を解決するためには必要なことです。しかし、その調査内容が正確でなく、「ポスドクは悲惨」というメッセージをいたずらに広めるだけであっては、その報告書を公開することは「百害あって一利なし」と言わざるを得ません。

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繰り返しになりますが、ポスドクを取り巻く環境は悲惨です。このことが事実であることには最早疑いの余地はありません。一方で、ポスドクが現在のアカデミア研究を支えていることも事実です。

ポスドクは未熟であるとの意見があるのは承知していますが、それでもポスドクの方々は若く体力的にも気持ち的にも充実しており、向上心とともに研究現場の前線で活躍しています。そのため、ポスドクが減れば、その国の科学技術力が低下することは充分に予想されます。

日本が真の科学技術立国となるためには、ポスドクがそのトレーニング期間を終えたとき、スムースに次のステップに進むことを国がサポートする必要があります。それでこそ、国策により博士号取得者およびポスドクを増やした意味があるというものです。

しかし、この「次のステップへ」の部分が困難であることが、今の「ポスドク問題」の主たる問題です。そして、この問題を国は未だに解決していません。解決するどころか、「適当なポスドク調査の公表」により「ポスドク問題」をより悪化させる愚をおかしています。

間違った情報を公表し、ポスドクの悲惨さを強調し、研究者を目指そうとする若い人たちを研究業界から離れさせてどうするというのでしょうか。

私はこの報告書を読んで、そのいい加減さに怒りを超えて絶望感を覚えました。世のマスコミを始め、多くの人は、この報告書は「ポスドクの正規職への移行は大卒より低い」という点でしか理解していません。

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過去3回に渡り、この報告書の問題点をいくつかお示ししました。

第1回目では、科学技術・学術政策研究所に所属する人間が科学技術・学術政策研究所名義で報告書を仕上げ、科学技術・学術政策研究所の公式のサイトに掲載しているにも関わらず、報告書の内容は執筆者自身の見解であるとした点について触れました。

第2回目では、この報告書での「ポスドクの定義」における疑問点・問題点を解説しました。

前回の第3回目は、報告書全体の内容の薄さに言及しました。

これら私の連載の過去記事については、色々なご指摘や厳しいご意見も伺いました。そこで、ここで改めて本連載を仕切りなおそうと思います。次回からは、ポスドク問題そのものを考えつつも、本報告書の何が問題かを細かに見ていこうと思います。私の連載が、ポスドク問題とそれに対する国の対応を理解する上で何らかの助けになれば幸いです。

執筆者:広義の意味でのポストドクター

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