失楽 ー夢から覚めた、その先はー
Tweet第6回(更新日:2014年09月06日)
挫折、研究室内失業、そして今。
「研究」とは一体何なのでしょうか。
身体も、精神までもボロボロにしてまで、続けなくてはならないものでしょうか。
そもそも一体、何をもって「研究」と呼ぶのでしょうか。
...何の為の、誰の為の研究でしょうか。
【研究室内失業】
研究が頓挫し途方に暮れた私は、これから何をすればいいのか共同研究先(左遷先)の指導教官に訊ねました。
「次のテーマが決まるまで好きにしてて」
返ってきたのはそっけない一言。
仕方なく、論文を読んだり雑用をしたりして時間をつぶしましたが、それでも一日の大半の時間をもてあましていました。
よく、「社内失業」という言葉を耳にしますが、いうなればそれの研究室版、「研究室内失業」になってしまいました。
私は教授に放置されて研究室内失業になった先輩を何人か見ています。
同級生や下級生にさげすまれ、かげ口を言われ、悪いことの代表例みたいに扱われてきた彼らを見ています。
彼らはやる気がないから、そうなっているんだと、ずっと思っていました
...ですが、よくよく考えてみれば、自発的にやる気を失う人なんて、いるはずがないのです。
「やる気を失う(=結果)」には、それ相応の「理由(=原因)」がある。
そんな当たり前のことに気付かずに、私は無責任にも「どうしてこの人たちは働かないのだろう」と思っていました。
自分もおなじ立場になってみて、ようやく彼らの苦労をわかった気がします。
今更謝っても遅いのかもしれません。いいえ、きっと遅すぎるんです。
これは私に対する報いなのかもしれません。
少し前まで、ブラック企業並みの拘束時間を強いられていた私にとって、この「何もすることがない」という状況は想像以上に苦痛でした。
皆、まじめに実験しているのに、私は一体何をしているんだろう。
このまま研究室内ニート状態が続けば、いずれ本当のニートになってしまうかもしれない。
焦る心と、自分一人が楽をしている申し訳なさとで、私の心は徐々に荒んでいきました。
それと同時に、指導教官との溝も深まってゆきました。
【新しいテーマ】
放置されてからひと月後、ようやく新しいテーマが決まりました。
野心も熱意も失い、「研究」というものに興味も関心も失っていた私は、
「これで頑張ってファーストで論文を出そう」とか、
「なんとかして本部に返り咲こう」とか、
...そんなポジティブな考えは、微塵も浮かびませんでした。
ただ、この生き地獄のような日々もようやく終わるのだ、と安堵にも似た気持ちを抱きました。
...けれども、現実はそう甘くはありませんでした。
新しく決まったテーマは、私も指導教官も未経験の分野で、何をどう手をつけていいのか全く分からない状態でした。
おまけに、彼は能力以上に仕事を抱えており、私のことまで面倒をみる余裕はなさそうでした。
結局、私は放置されたままで、自分で実験を進めるほかありませんでした。
***
やがて指導教官との仲は冷え切り、実験も滞り始めました。
そんな折、現状を本部の教授に見咎められ、教授室に呼び出されました。
教授は言いました。
「そんな瑣末なことで実験が滞っているのは良くないね。」
「指導教官との関係がうまくいかないのは君自身に問題があるんじゃないの。」
「君は人に好かれるような性格をしていないんだから、それをもっと自覚しなきゃ。」
「...今まで友人関係で困ったことなかったの?」
そう言って彼は笑いました。
呆然とする私に、なおも彼はつづけます。
「前々から思ってたけど、君は努力が足りないよね。」
「努力していれば認めてもらえるはずだよ。見ている人から見ればその人が努力しているかどうかなんて、一目でわかるんだからね。」
「君の今の現状は君の努力不足が招いてるんじゃないの。」
他にも散々言われたような気がしますが、途中からあまり覚えていません。
話が終わるとすぐに、女子トイレに駆け込んで泣きました。
なんでそこまで言われなきゃいけないの?
あなたに私の何がわかるというの?
あれだけ頑張ってきたのに。
少なくとも私は我武者羅に頑張っていたつもりだったのに。
私の努力は、何一つ認めるに値しないものだったというの?
なんで、どうして。
どうして、ここまで言われないといけないの。
...全てがどうでもよくなって、ひと月ほど研究室を休みました。
きっと私がいなくても、...いや、むしろ嫌われ者の私はいないほうが。
...そんな風にさえ、思いました。
もう、嫌になってしまったんです。頑張ることに疲れてしまったんです。
休んでいる間、このまま大学を辞めようかと、何度も考えました。
「大学を辞めて、どうするのか。本当にニートになるつもりなのか」
「特にやりたいこともないのに辞めるなんて、これは完全な逃げじゃないのか。」
そう思う一方、
「もうあそこに半年もいるなんて耐えられない。」
「精神を病んでまで、大学卒の称号がほしいのか?」
と、思う自分もいました。
悩みに悩んだ末、とりあえず大学は辞めずに研究室だけよそに移ることにしました。
第7回「最終回」へ続く