英語の論文を整理する方法



第3回(更新日:2016年2月8日)

論文管理の方法(1):コンピュータのフォルダで管理する

かつて雑誌のほしい部分をコピーする必要があった論文収集ですが、最近はインターネットのおかげで、欲しい論文を検索してダウンロードできるようになりました。そのため、論文をPDFファイルとして保存している方も多いと思います。

今回は、「論文をコンピュータのフォルダで管理する」ことに注目します。

多くの研究者は、複数のプロジェクトを抱えていることでしょう。何冊かの実験ノート(ラボノート)をプロジェクトごとに使い分けていると思います。この場合、コンピュータの特定の場所(「My document」や「書類」フォルダなど)に、実験ノートと同じ名前(それぞれのプロジェクトに対応した名前)のフォルダを作成するのが良い方法です。

そして、それぞれのフォルダに、論文PDFファイルを保存していきます。たとえば「project 1: ○○遺伝子のSNP解析」とか「project 2: △△タンパクKOモデル」などです。(Figure 1)

なお、すでに印刷された紙としてのみ所有している論文は、場合によりPDFファイルを出版社からダウンロードしなおすか、それが難しい場合、スキャンしてPDFとして保存することが必要です。

この方法の大まかな長所と短所をまとめました(Table 1)。

以下、長所と短所に関して少し解説を加えます。

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長所1. 簡単

なんといっても、PDFファイルをダウンロードフォルダから所定のフォルダに移すだけなので、いつでも簡単に始めることができます。

長所2. 日本語の文献でもOK

文献管理ソフトによっては、日本語非対応のものもあります。しかしフォルダ管理の場合、日本語、英語、どのような論文でもフォルダに入れておけます。

長所3. Dropboxなどのオンラインストレージと連携させやすい

Dropboxなどのオンラインストレージを利用している方は、論文を保存しているフォルダをDropboxなどのサービスに登録しておくことで、複数の端末間でファイルを同期できます。たとえば、研究室でダウンロードした論文を自宅で確認できますし、移動中にタブレットやスマートフォンなどで欲しいファイルにアクセスすることも可能になります。

長所4. MacでもWindowsでも同じような操作で管理できる

フォルダによる管理は、どのOSでも問題なく利用できます。あらたにデバイスを購入する必要がありません。

長所5. PDF全文検索が可能

OSのアップデートにより、検索機能が進化してきています。文字が埋め込まれている一般的なPDFファイルでは、WindowsやMac OSに標準で搭載されている検索機能で「PDFファイルの全文検索」ができるようになってきました。これにより、欲しいキーワードを論文内に含んでいるファイルを探しやすくなりました。

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一方で、以下のような短所もあります。

短所1. 複数のプロジェクトに関わる論文の保管に困る

複数のプロジェクトが全く別の領域なら問題ないのですが、多少なりの関連性がある場合に生じる問題です。

たとえば、「○○遺伝子」の研究をしているラボで、「○○遺伝子の疫学」「○○遺伝子の動物実験」「○○遺伝子の臨床研究」の3つのプロジェクトを進めているとします。この場合、webで見つけてダウンロードした論文PDFファイルをこれら3つのフォルダにそれぞれ保存すべきかどうか悩むことになります。

論文ファイルのアップデートや削除を複数のファイルに処理する必要が生じるため、ファイルが知らない間に増殖したり、最新ファイルがどれか分からなくなったりするおそれがあります。オリジナル1つ以外のファイルに「コピー」という名前をつける方法もありますが、短所2にあるようにファイル名がすごく長くなってしまいます。

短所2. ファイル名のつけ方が悩ましい

PDFファイルの名前に登録したいものとしては、論文のタイトル、著者名、施設、発表年度、雑誌名、など、複数のパラメーターがあります。これらを全てファイル名にいれると、とても長い名前になってしまうため、何を優先してファイル名にするか悩むことになります。ファイル名の法則を決めておかないと、中身は同じなのに名前が違う「重複ファイル」が増殖してしまうおそれがあります。

研究者によって重要なファクターは変わると思いますが、たとえば私の場合、論文タイトルよりも発表年度や雑誌名をファイル名に優先させています。

短所3. アンダーラインやコメントの追加などをPDFに反映させにくい

ファイルを1つずつAcrobatやプレビューで開くことで、アンダーライン(ハイライト)やコメントの挿入が可能ですが、やや面倒です。論文管理ソフトには、これらの機能をソフト上でできるようにサポートしているものがあります。

短所4. supplementary Informationなどの関連ファイルを保存しにくい

最近、figureやtableが多い論文の中には、追加情報をsupplementary Informationとして、別ファイルで提供しているものがあります。このような関連ファイルをフォルダに保存する場合、そのファイル名に困ることになります。本当の論文ファイルとsupplementary Informationファイルとを同じ名前にすることができませんし、「supplementary Information」と長い名前をファイル名に入れることも現実的ではないため、工夫が必要です。

短所5. 読みたい論文をすぐに見つけにくい

長所5の裏返しのようですが、OS標準の検索では、複雑な検索ができません。論文PDFファイルが増えて、複数のフォルダに複数のファイルが保存されてくると、欲しい論文を探すことが次第に難しくなります。適切なファイル名をつけること、保存場所を把握しておくこと、などが必要ですが、限界があります。

一方、論文管理ソフトなど(Mendeleyなど)では、出版社別、筆者別などで大別し、その上でキーワード検索することが簡単な操作でできるため、比較的楽に欲しいファイルを見つけることができます。(Figure 2)

論文を「コンピュータのフォルダで管理する」方法は、特別なソフトは必要ないですし、コンピュータがあればすぐに始められるため、初心者でも問題なく導入できる方法だと思います。また、ベテラン研究者でも、論文を「フォルダで管理」している方は多いです。老若男女を問わず、誰でも利用できる万能の方法でしょう。いくつかある短所をうまく解決することができれば、より一層便利に使える管理法だと思います。


執筆者:研究もしている医師
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