英語の論文を整理する方法
Tweet第4回(更新日:2016年2月22日)
論文管理の方法(2):Evernoteで管理する
今回は、Evernoteというソフトを紹介します。
Evernoteは、「メモや文章を書く」「必要な情報を集める」など、多様な用途を果たすワークスペースとして機能するソフトウェアであると公式サイトで紹介されています。コンピュータだけではなく、スマートフォンやタブレットなど様々なデバイスに対応しています。このソフトは、基本的に無料で開始できます。
この方法の大まかな長所と短所をまとめました。
以下、少し解説を加えます。
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■ 長所1. 比較的簡単
Evernoteの「ノート」にファイルを追加するだけでよいので、簡単です。「ノート」に保存できるのは、PDFファイルだけではなく、テキストや画像など、どんなファイルでも大丈夫です。ファイルをアップロードした後、「同期」することで、同じアカウントで登録している他のデバイスにもそのファイルが「同期」されます。(下図参照:クリックで拡大)
■ 長所2. 同期できる
Dropboxがフォルダを同期できるクラウドサービスであるのと同様に、Evernoteもクラウドベースのサービスです。Dropboxの場合、各端末の中の欲しいフォルダを選んで同期対象としますが、Evernoteの場合、ソフトの「ノート」にファイルを追加して、この「ノート」を複数の端末にインストールされているEvernoteのソフト間で同期します。
Evernoteは、WindowsやMac、iOS、Android、Amazonなど、多くのプラットフォームに対応しています。したがって、職場のWindowsで保存・同期したPDFファイルをスマートフォンや自宅のMacなどで確認できます。
■ 長所3. 日本語の文献でもOK
文献管理ソフトによっては、日本語非対応のものもあります。しかし、Evernoteで管理する場合、ソフトは日本語化されていますし、日本語、英語、どのような論文でも保存・同期できます。
■ 長所4. 複数のプロジェクトに関わる論文でもうまく管理できる
Evernoteは、「ノートブック」と「タグ」の両方のフィルターがあります。これをうまく利用することで、複数のプロジェクトに関わる論文もうまく管理できます。
一例として、実験ノートと同じ名前の「ノート」をEvernoteに1つ作り、この「ノート」を論文の目次として管理する方法を紹介します。
論文PDFファイルは「ノート」に1つずつ保存していき、それぞれタグを付けて管理します。
たとえば、「○○遺伝子の疫学」「○○遺伝子の動物実験」「○○遺伝子の臨床研究」を研究しているラボの場合を考えてみましょう。研究テーマが「○○遺伝子」で共通しているため、Evernoteの「ノート」のタイトルを「○○遺伝子」としました。これを「◯◯遺伝子プロジェクト」の論文を管理する「目次」とします。そして、関連する論文PDFを10ファイル保存しました。これらの論文の一部には「疫学」や「動物実験」、「臨床研究」のそれぞれの内容に重なる場合がありえます。これら一連の流れは下図を参照してみてください(いずれもクリックで拡大します)。
■ 長所5. コメント・アンダーラインの追加が可能
各「ノート」には、PDF以外にもテキストや画像など、いろんなファイルを保存することができます。そのため、その論文を読んだ感想をコメントとして記録できます。また、以前Skitchという別アプリとして提供されていた機能がEvernoteに組み込まれているため、PDFに直接編集してアンダーラインやコメントを追加することもできます。(下図参照:クリックで拡大)
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一方で、Evernote無料版で論文管理をする短所もあります。
■ 短所1. PDF内の文字検索ができない
Evernoteに「検索」機能がありますが、その「検索」では、保存されたPDFの全文検索には対応していません。そのため、Evernoteに保存する「ノート」に適切なタイトルをつけたりテキストをつけたりして検索しやすくしておく必要があります。
■ 短所2. ファイル名のつけ方が悩ましい
PDFファイルの名前に登録したいものとしては、論文のタイトル、著者名、施設、発表年度、雑誌名、など、複数のパラメーターがあります。これらを全てファイル名にいれると、とても長い名前になってしまうため、何を優先してファイル名にするか悩むことになります。
ファイル名の法則を決めておかないと、中身は同じなのに名前が違う「重複ファイル」が増殖してしまうおそれがあります。研究者によって重要なファクターは変わると思いますが、私の場合、論文タイトルよりも発表年度や雑誌名をファイル名に優先させています。
■ 短所3. ソフトにアップロード制限がある
Evernoteには、1つのノートにアップロードできる容量が25 MB、月間アップロード容量が60 MB、保存できるノートは10万ファイルまで、などの制限があります。もっとも、動画や写真の保存では問題になる可能性がありますが、PDFで論文を管理するという使用範囲では大きな問題にはならないかもしれません。
■ 短所4. ソフト上より、印刷した方が論文を読みやすい
フォルダや文献管理ソフトで論文を管理していると、論文を印刷しなくてもデバイス上で読むことができますが、Evernoteのソフト上でPDFファイルを読むのは不可能、もしくは、あまり快適ではありません。EvernoteからコンピュータやiPadなどのデバイスにファイルをダウンロードして読む、もしくは印刷して読むことをおすすめします。
■ 短所5. インターネットが必要
Evernoteというソフトを使う上で「クラウドの同期」は重要です。そのため、インターネットが使える環境が必須です。コンピュータやスマートフォンなどがインターネットに接続されていない状態で、Evernoteの同じファイルを別々の端末で編集すると、内容の異なるファイルができてしまい、同期エラーが起こりえます。
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スマートフォンには色々なソフト(アプリ)がありますが、Evernoteはその中でも比較的有名ですので、使用経験のある方も多いでしょう。ただ、Evernoteは高機能化が進んでいて、有料のオプションも複数存在するため、初心者は始めにくいという一面もあります。
今回のテーマは「論文管理」ですが、もちろん、「論文を執筆する」ことも重要な仕事です。「関連のある論文や実験データを集めて、論文を執筆・投稿する」という一連の作業を考えると、Evernoteはとても役立つソフトと思います。「ノート」に、写真や音声などあらゆるデータを保存・同期できるからです。たとえば、ホワイトボードに書いた思考過程を写真を撮って保存しておく、忘れそうなことを音声として記録しておく、論文の下書きを少しずつ書きためていく、などに使えそうです。
なお、EvernoteにはPDF全文検索機能が有料機能として提供されています。少しずつEvernoteを使いこなすことができれば導入を検討してみても良いかもしれません。
執筆者:研究もしている医師
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