生成AIが書いたバイオ系短編小説集



生成AIが書いたバイオ系短編小説集

白いシーツの下

僕は医学部の三年生だ。国家試験まであと一年。毎日が解剖実習と臨床実習と、終わらないレポートの連続だった。睡眠時間は平均四時間。コーヒーのおかわりを頼む回数が、友人の誰よりも多い。

その夜も、僕は大学病院の地下二階にある標本室にいた。実習で使った標本を片付ける当番だったのだ。蛍光灯がチカチカと点滅する狭い部屋。ホルマリンの匂いが鼻の奥に染みついている。壁には古い解剖図が貼られ、棚には人骨の模型が並んでいる。

片付けを終えて扉に手をかけたとき、廊下の奥から小さな音がした。金属が落ちるような、乾いた音。

「誰かいるのか?」

声をかけても返事はない。時計は午前二時十七分を指していた。この時間に地下に来る人間など、普通はいない。

僕は懐中電灯代わりにスマホのライトを点け、音のした方へ歩いた。

古いストレッチャーが壁に寄りかかっていた。その上に、白いシーツが無造作にかけられている。シーツの端から、黒い髪の毛が少しだけ覗いていた。

僕は息を呑んだ。

シーツをゆっくりめくる。若い女の顔が出てきた。蒼白で、唇は紫色に変色している。目は半開きで、瞳孔が開いたままだった。首の横に、小さな刺し傷がある。針の痕のようだ。

「……誰だ、これは」

すぐに教授に連絡しようとして、ポケットを探る。だがスマホのバッテリーが切れていた。充電器は上の階のロッカーに置いたままだ。

非常階段を駆け上がろうとした瞬間、背後で足音がした。

振り返ると、白衣を着た男が立っていた。顔は薄暗くてよく見えない。ただ、右手にメスを持っていることだけははっきりと分かった。

「君か」とその男が言った。

僕は後ずさった。ストレッチャーに背中が当たる。

「先生……? 何を……」

男はゆっくりと近づいてきた。メスの刃が蛍光灯の光を反射する。

「君は優秀だったな。成績も上位だった。だが、好奇心が強すぎた」

「何の話ですか」

「あの患者のことだよ。君が勝手にカルテを見た件だ」

思い出した。

二週間前、救急外来で急変した患者がいた。四十代の男性。原因不明の心停止。僕は担当ではなかったが、興味本位で電子カルテを覗いてしまった。

投与された薬の量が、明らかに過剰だった。

そのことを教授に報告しようとして、止められたのだ。「君の勘違いだ」と。

男はさらに一歩近づいた。

「口を封じなければならなかった。君が騒ぎ立てれば、全てが明るみに出る」

僕はストレッチャーの横に置いてあった古い鉄製のトレイを掴み、男に投げつけた。男が避けた隙に、非常階段へ走った。心臓が激しく鳴る。階段を二段飛ばしで上がる。一階の救急外来の明かりが見えた。

「助けてください! 人が殺されてます!」

夜勤の看護師が驚いた顔で振り返った。すぐに警備員が呼ばれ、地下へ降りていった。

十分後、彼らは戻ってきた。

「地下に人はいませんでしたよ。ストレッチャーも空でした」

「嘘だ! 死体があった! 白衣の男が……」

看護師は僕の腕を掴んだ。

「落ち着いてください。君、顔色が悪い。少し休んだ方がいい」

僕は抗議した。だが誰も信じない。教授に電話しても、出ない。友人に連絡しても「寝ぼけてるだろ」と一蹴された。

翌朝、僕は教授室に呼ばれた。教授は窓の外を見ながら、静かに言った。

「君はもう、ここに来る必要はない」

「どういう意味ですか」

「君は二週間前に、亡くなっている」

世界が、音を失った。

「救急外来で急変した患者は、君だよ。過労と睡眠薬の過剰摂取。君は自分で注射したんだ。遺書も残していた。『もう限界だ』と」

僕は首を横に振った。

「馬鹿な。僕は今、こうして……」

教授はデスクの引き出しから、一枚の写真を取り出した。

白いシーツに包まれた若い男の顔。黒い髪。半開きの目。首の横に、小さな刺し傷。それは、昨夜シーツの下で見た女の顔ではなかった。それは、僕自身の顔だった。

「君の意識は、死後もこの病院をさまよっていたんだろう。標本室のストレッチャーに、君の遺体は二週間安置されていた。解剖実習の教材になる予定だったんだ」

僕は自分の手を見た。透けていなかった。触れれば感触がある。だが教授の言葉は、全て真実のように響いた。

「昨夜、君が見た『女』は、君の脳が作り出した幻覚だ。君は自分の死を認められず、誰かの陰謀にすり替えた。白衣の男も、メスも、全部」

僕は後ずさった。壁に手が突き抜ける。

「待ってくれ。僕はまだ……」

教授はゆっくりと扉を開けた。

「もう行きたまえ。君の場所は、ここではない」

廊下に出ると、朝の光が差し込んでいた。ナースステーションでは昨夜の看護師が普通に働いている。誰も僕に気づかない。僕は地下二階へ戻った。標本室の扉は開いていた。ストレッチャーの上の白いシーツは、もう空だった。代わりに、棚の一番上に、新しい標本瓶が置かれていた。中にはホルマリンに浸された、若い男の心臓があった。

ラベルには、こう書かれている。

「医学部三年 死因:急性薬物中毒 提供者:本人」

僕はその瓶に手を伸ばした。指先がガラスをすり抜ける。

ああ、そうか。僕は最初から、ここにいたのだ。白いシーツの下で。


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