Nature/Scienceのニュース記事から



第84回(2015年5月10日更新)

新しいタイプの多能性幹細胞が発見される

新しく発見された多能性幹細胞が、将来ブタやウシなどの大型の動物でヒトの臓器を作製する技術の開発の第一歩となる可能性を秘めている。

これまでに2種類の多能性幹細胞が発見されていたが、いずれも試験管内で増やしたり特定の種類の細胞に分化させるのが困難だった。

このほど、新規のタイプの多能性幹細胞が発見された。この多能性幹細胞は、試験管内で増やすのが比較的容易で、胚の特定の位置に注入すると生着する。発見者らはこの新型多能性幹細胞をregion selective pluripotent cell (rsPSC)と名付け、この発見をNature誌に発表した。

この著者らは、既知のタイプのヒト多能性幹細胞をマウスの胚に移植する研究をしていた。その際、多能性幹細胞の誘導には様々な成長因子を使っていたが、その中で、ある組み合わせの成長因子を使って誘導した多能性幹細胞は、通常より増殖が速いことがわかった。しかし、この細胞はマウスの胚にうまく生着しなかった。

その原因を探るために、マウスの胚の中の異なる位置3カ所にこの細胞を注入して生着の度合を調べた。その結果、胚の中でも尾の部分に注入した時のみうまく生着して正しい層の細胞へと分化し、キメラ胚となることを突き止めた。

この細胞の発見者らは、発生の初期には胚は様々なタイプの多能性幹細胞を持っているのではないかと考えている。胚のどの部分の細胞が頭や足を作っていくのかに、今回発見されたrsPSCが関与しているかどうかはまだ不明である。

さらに、rsPSCの染色体DNAは酵素によって切断し改変を加えることが比較的容易であることもわかった。通常のPSCではこれは難しい。

また、キメラ動物を作製するには遺伝子改変によりヒト幹細胞を異なる種の動物内で生存可能にすることが必要であるが、rsPSCやその他の多能性幹細胞を使って動物内でヒトの臓器を作製することは非常に難しい。しかし非現実的ではないと考えられる。今後は、ヒトの細胞やそれでできた臓器を動物の免疫系が異物と認識し攻撃する拒絶反応や、臓器の形成を引き起こすシグナル分子がヒトと動物とで異なる可能性などの問題を解決していく必要がある。

http://www.nature.com/news/scientists-stumble-across-unknown-stem-cell-type-1.17496

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