Nature/Scienceのニュース記事から
Tweet第91回(2015年10月25日更新)
2015年ノーベル医学・生理学賞および化学賞に関する記事
2015年のノーベル医学・生理学賞は、寄生虫感染に対する天然物由来の薬物の発見、開発に対して、3人の研究者に贈られた。そのうち1人が日本人であったことから、日本でも大きな話題となった。さらに、もう1人が中国初の自然科学分野でのノーベル賞受賞者となったため、世界的な関心を集めた。
3人の受賞者とその功績は以下の通り。
■ Youyou Tu(中国)
漢方薬から抗マラリア成分artemisininを発見。
Nature Newsの記事では、中国人研究者のコメントが2つ取り上げられている。1つは、「近年の若手中国人研究者の多くは、良い研究をしようと思えば海外に出て国際的に認められた学術雑誌に論文を発表するべきだと考えている。しかし、Tu氏は中国以外で研究をしたことはなく、これまでの発表論文も輝かしいものではない。彼女は、昨今の流れには当てはまらないものの、その研究のオリジナリティを認められてノーベル賞を受賞した。これは中国の科学者たちへの教訓である。」というもの。
もう1つは、「artemisininの発見の功績を誰に帰すべきかについては様々な意見がある。Tu氏は、中国国内では主要な賞を受賞したことはないし、中国科学院と中国工程院のいずれにも選ばれたことがない(中国科学院と中国工程院は合わせて「両院」と呼ばれ、中国におけるハイテク総合研究と自然科学の最高研究機関である)。他の研究者らもartemisininの発見に関わってはいたが、Tu氏は紛れもなくリーダーであった。ただ、彼女は中国国内では正当に評価されていなかったのだ。」
■ Satoshi Omura(日本)
■ William C. Campbell(アメリカ)
土壌中の細菌から単離された成分に修飾を加えることで、寄生虫感染症治療薬を開発。
Omura氏は土壌中の細菌の中で抗菌作用のあるものを単離し、当時共同研究契約のあったNew Jerseyのメルクに送った。Campbellはこの細菌から抗菌作用を持つ化合物avermectinを単離し、さらに構造に修飾を加えてivermectinを開発した。メルクは1987年、この薬を河川盲目賞治療薬として無償提供、さらにその後、リンパ管フィラリア症に対しても無償提供した。
一方、ノーベル化学賞は、DNA修復機構の解明に対して、3人の研究者らに贈られた。3人の受賞者とその功績は以下の通り。
■ Thomas Lindahl(スウェーデン)
「塩基除去修復」というDNA修復機構を解明。単一の塩基対の損傷に対する修復である。Lindahl氏以前には、そもそもDNA修復機構が存在するという考えに気づいている人はほとんどいなかったのではないかと言われる。
■ Aziz Sancar(トルコ)
「ヌクレオチド除去修復」というDNA修復機構を解明。紫外線や発ガン性物質による数十塩基対におよぶ損傷に対する修復機構である。
■ Paul Modrich(アメリカ)
「ミスマッチ修復」というDNA修復機構を解明。DNA複製の際に生じた対合しない塩基対の修復機構である。
DNA修復機構の分野は研究者人口が非常に大きく、「アメリカのノーベル医学生理学賞」とも言われるラスカー賞は、2015年9月に別の2人の研究者らに授与された。
DNA修復機構に問題があると、DNAの損傷が修復されないままになるため、ガンのリスクが高まる。また、ガン細胞自身もDNA修復機構を使って生き残る。ガンに対抗するためには、正常細胞のDNA修復機構自体は必要だが、ガン細胞のDNA修復機構は望ましくないということだ。現在、ガン細胞のDNA修復機構を標的とした治療法に関心が集まっている。
また、DNA修復機構の研究は、古代DNAの分野にも大きな影響を与えた。Lindahlが最初に解明したDNA損傷のパターンは、現在では、DNAが古代由来であり現代DNAの混入ではないことを示すための信頼性の証明として使われるようになっている。
http://www.nature.com/news/anti-parasite-drugs-sweep-nobel-prize-in-medicine-2015-1.18507
http://www.nature.com/news/dna-repair-sleuths-win-chemistry-nobel-1.18515