Nature/Scienceのニュース記事から



第94回(2015年12月21日更新)

流れを食い止めよ:日本の新しい臨床試験システムへの批判

日本はiPS細胞の研究に巨額の投資をし、再生医療を市場に出すために医薬法制の全面的な見直しを行い優先審査を開始した。

今年9月には、この新しい法制のもとで初めての再生医療技術が承認された。このような優先的な審査システムがないと、長期間に渡って複数のフェーズの臨床試験を行わなければならず、新しい治療技術が患者に届くまでに何年もかかってしまう、という意見もある。しかし、このような加速承認が患者にとって本当に良いのか、また日本の健康保険制度にとっても本当に良いのかは不明である。

9月に承認された再生医療の1つであるHeartSheetは、テルモ社から売り出された治療法である。重症の心疾患の患者の腿の骨格筋幹細胞を取り出し、それを体外で増殖させてシート状にし、患者の心臓に移植するというものである。厚生労働省は、同社が7人の患者で第2相試験を行い、安全性と効能が示唆されたことを受けて、条件付承認を出した。

同社はこの治療法を販売することができる。5年以内に少なくとも60人の患者にこの治療法を適用し120人の対照患者の結果と合わせて、有効性を証明しなくてはならない。

このような承認は、日本の2つの執着を煽るものである。1つは、iPS細胞が国家プロジェクトになって以来の、日本が再生医療の世界最先端になりたいという期待であり、もう1つは、日本の経済成長を牽引するエンジンを見つけたいという期待である。

日本でのこの再生医療の承認は、世界中のバイオテクノロジー企業に興奮をもって迎えられた。特に、カリフォルニアの会社がES細胞療法を諦め、今年理研が加齢性黄斑変性症へのiPS細胞由来の網膜移植の臨床試験を中止した後であったため尚更だった。

この治療法には1500万円かかる。健康保険がカバーしても患者の負担はその10-30%と高額だ。そして、その治療法の有効性はまだ証明されていないのだ。結局のところ、販売している企業が臨床試験を行うためのコストを患者が補助しているようなものだ。

長期的に見れば利益を得るのは製薬会社なのだから、本来ならばそのための投資の負担やリスクを負うのは製薬会社であるはずだ。しかし日本は創薬モデルを根本から覆してしまった。

政府は、このシステムは多くの再生医療技術の上市を奨励するものであると主張している。確かに、初期の小規模な臨床試験を飛ばすことはできるだろう。多くの薬がそれをして、そしてほとんどは第3相試験でドロップするのだ。

他の国々のバイオテクノロジー企業も当局に対し、日本の後に続くよう圧力をかけている。しかしこれは悪い動きだ。世界中の規制当局は、少なくとも日本がこのシステムが機能することを証明するまではこのような圧力に抵抗するべきだ。これには時間がかかる。日本は、保険制度が高いコストに耐えうることを証明し、患者が騙されたと感じないようにするべきだ。もしこの高速承認システムで承認された治療法が最終的に効果がないとわかった場合にはどうなるのか。その場合でも患者は返金を受けられないという。患者負担は高くて450万円にも及ぶというのにだ。

日本の医薬規制当局は、これらの治療法の販売後調査が本当に厳しく行われることを保証しなければならない。承認が条件付きであろうと、一旦承認したものを取り消すのは容易ではない。もし調査が緩くて、治療法に効果がないにもかかわらずそれが明らかにならないのであれば、日本には効果のない治療法があふれ返ることになるだろう。それは患者にとっても政府にとっても、そして本当に効果のある治療法を開発したいと考えるバイオテクノロジー企業にとっても良くないことである。

http://www.nature.com/news/stem-the-tide-1.18976

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