研究者の声:オピニオン



2023年9月10日更新

追記:ある還暦データサイエンティストからの告発

2021年5月21日、私はオピニオン記事として以下の記事を寄稿した。

ある還暦データサイエンティストからの告発 〜私の博士号の学位はアカハラにより露と消えた〜

この記事では、大学名や人名などの具体的な情報は伏せたが、それでも私に近しい人にとっては個人の特定が難しくなかったようだ。そのためか、何人かの知人から「あの記事はあなたのものですか?」と問い合わせがあった。

知人からのフィードバックなどをもとに改めて当時のことを振り返ってみると、大学側が私の立場を守ってはくれず、指導教官であった当時の准教授の私への学生指導がアカハラの域を超えており、文科省が定めたガイドラインに抵触する恐れがある「研究不正」にすら相当するという確信に至り、簡易裁判所で調停を求めた。

今回の記事では、その経緯をお知らせしたいと考えている。

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簡易裁判所で訴えた内容は以下の通りだ。

1)准教授の行為はアカハラ(もしくは研究不正)ではないのか?
2)今回の事象の説明(なぜ准教授はそのような態度をとったのか、大学側はなぜ何も対応しなかったのか)
3)在学当時の審査条件での学位認定
4)大学からの公式な謝罪

しかし、今回の調停では、争点として研究不正であったかどうかについての記述が明確でなかったためか、先方からは完全に無視された。アカハラ認定はおろか、謝罪の一言もなかった。

私への指導については、ラボには指導の記録が一切残されていないにも関わらず、先方は適切に行われたと主張した。そうであれば、具体的な内容やプロセスを第三者から見ても合理的なものとして示すべきだと思われるのだが、そうした説明はなかった。結局、大学からの答弁書を一言でまとめると、大学側には問題はなかったという回答であった。

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ところで、前回の記事で触れたコンプライアンス提訴についての経緯も少しお伝えしておきたい。前回の記事で述べたが簡易裁判所に調停の申し立てをした8年ほど前に、大学側に公式にコンプライアンス提訴を行ったのだが、大学からの回答は提訴から一年以上が経過してからメールでようやく送られてきた。

そのメールの内容を要約すると、

1)当該教員には十分反省させた
2)単位取得退学の制度はきちんと説明する体制を組みたい。
3)社会人学生の研究の進捗が思わしくない場合には、早期に複数の教員が指導に当たる体制を組みたい。

というものであった。

このメールを受領したあと、実際に担当理事他2名と某所で応対もしたのだが、コンプライアンス違反があったかどうかについては具体的な言及はなかった。

したがって、大学側の回答はコンプライアンス提訴に対する適切な回答ではなかったと私は考えている。本来であれば、コンプライアンス提訴に対しては、コンプライアンスを違反したかどうかの判定結果を示す必要がある。そして、その上で当該教員には適切な処分がなされるべきである。

コンプライアンス違反がないと大学が判断したのであれば、当該教員には反省を促す必要はなく、逆に訴求した私に問題があったということになる。しかし、今回の場合、大学側は当該教員(指導教官であった准教授および学務担当教授)には十分な反省をさせたということであったので、大学側は非を認めたということだと私は解釈した。しかし、結果として大学は私に何の補償も行わなかった。

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コンプライアンス提訴に関しての大学側とのやりとりは、上記のような中途半端な形で終わっていたのだが、実は簡易裁判所に調停を申し立てした3ヶ月前にも大学側とは一度やり取りを行った。そのときは、コンプライアンス違反という内容ではなく、私が件の准教授から受けた仕打ちは「アカハラ」だったのではないかと一歩踏み込んで問い合わせをしたのだ。

そのときは、大学側はすでに当事者が退職して詳細な調査はできないができる限り再調査すると約束した。しかし、3ヶ月経過してもなんの音沙汰もなかったので、最終的には私は簡易裁判所に調停を申し立てるという行動をとるしかなかった。過去に1年以上もかけて調査したのだから、その資料をもとにアカハラの有無を再解釈することは難しくないはずであり、3ヶ月もあれば充分と考えたからだ。

さて、そのような経緯を辿って調停を申し立てたのだが、先のコンプライアンス提訴での大学側の態度とは全く変わり、この調停では大学の指導は適切であり一切非はなかったと回答してきた。

率直な感想を述べるなら、私はその回答に心底呆れてしまった。大学に非はないとするのであれば、大学側と直接やり取りをしていた「コンプライアンス提訴」で、当該教員に十分反省させたというのは何を意味するのであろうか。

当時の私の勤務先との共同研究について(詳細は前回の記事を参照)、共同研究締結を要請した指導教員(件の准教授)が一切アイデアを出さずに私の研究内容をもって報告書とした件は、本来であれば、コンプライアンス違反どころか、ある種の背任ではないかとさえ思われる。しかも、それを大学側が「指導教員に反省を促した(実際にはなんのお咎めもなかったが)」で済ましていたのも、今になって振り返ると、大学が不正行為の片棒を担いでいたとすら言えるのではないかと思われた。

簡易裁判所への調停申し立てを経て改めて感じたのは、この大学のコンプライアンス調査が全く機能していなかったのではということである。つまり、大学側としては、私の指導教員らには全く非がないと考えていたにも関わらず、とりあえずその場(コンプライアンス提訴)を一時的にやり過ごすために、私には件の准教授を反省させたと伝えてきただけだったのだ。事実、コンプライアンス違反について大学側は私とのやり取りでは一切触れておらず、また、調停申し立ての際には、公式に大学側に非はないとしたのだ。

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また、調停申し立てに対しての大学側の回答(答弁書)には、以下のような一文も記されていた。

「...申立人が論文投稿を希望した学術雑誌にはすでに先行研究があり、指導教員は別の雑誌への投稿を指導した…」

Biomedサーカスの読者には改めて説明の必要はないと思うが、当時の先行研究は現在でもPubMedで確認できる。また当時私は、A大学の社会人大学院生ではあり、企業に籍があった。通常、企業から論文を投稿するためには厳しい社内審査がある。私の勤務先も例外ではなく、私はBMC Bioinformaticsに投稿する予定で、BMC BioinformaticsのLaTeXテンプレートで論文を作成し、社内からは投稿してもよいとの許可を得ていた(=私の研究論文は投稿するに値すると会社は判断した)。さらに、投稿する前に特許出願による公知化手続きも済ませていた。これらの点については指導教員と共有した。さらに調停提訴時の証拠として特許の出願番号も提出した。

したがって、上記に示した答弁書の内容は完全なでっち上げであり、このような適当な内容が、堂々と答弁書という公文書に記載されていることに私は呆れるほかなかった。仮に、先行研究があったのであれば、別の雑誌に投稿しても無意味である。このことは、我々の分野の研究者であれば自明であり、研究指導の経験が少しでもあれば、このような文章は絶対に書かないはずである。この答弁書は大学側の弁護士(=この分野の研究の経験がない)が作成したものであると思われるが、大学側が雇った弁護士がこのような明確に間違った理解で文章を書いたのであれば、大学側としては文章を修正させるべきである。それすらできないのであれば、そもそもこの大学には研究指導や博士号の学位を授与する能力も資格もなかったのかもしれないとすら思われる。

さらに、前回の記事でも記した通り、私は他の学生の卒業研究の解析の一部を手伝うよう指導教官から要請された。しかし、手伝いというよりかは「解析丸投げ」という表現の方が正しく、そのような行為は教育機関としてはあり得ないと思われた。また、それら学生の彼ら彼女らの卒業論文に私の名前が記載されているかどうかも私は教えてもらえず、もし私の名前が入っていなかったら、それは研究不正の「盗用」もしくは「不適切なオーサーシップ」に該当するのではないかと考えた。この点において、大学側はそのような卒業論文の中に私の名前があるかどうかを調べて、件の准教授の私への対応は問題なかった(私の名前が入っている=他のプロジェクトへの私の貢献は認めていた)ということを主張すると思われたが、結果として、この点についても答弁書ではまったく言及なされなかった。

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私が在籍していたA大学は、私の退学後、他の大学(仮にB大学とする)と合併したため、今回の調停相手はC大学となっている。しかし、研究不正や指導の問題については答弁書では明確に触れられておらず、結果としてC大学の研究指導は詐欺行為と感じざるを得ない内容となっている。

今回の私の問題は、当時の指導教官であった准教授が適切な指導を行ってこなかったこと、および、大学側の不正確な主張に基づく責任逃れにあるのではと思う。授業料に対する対価が何もないどころか除籍という不名誉を与えておいて、当の本人が問い合わせをしても適当にその場を適当に凌ぐことしかしない。これらの問題は、科学技術立国を標榜する日本の研究の信頼性や学術界の評判に大きな影響を与える恐れがあり、私はこれからの日本の研究活動の行く末に暗い影を落とすのではないかと危惧している。


執筆者:還暦データサイエンティスト


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