研究者の声:オピニオン
Tweet2025年10月14日更新
研究は最先端、キャリアは行き止まり
海外に来て5年。研究室では毎日がまるでサーカスのようです(BioMedサーカス.comへの寄稿文だけに)。実験台の上でピペットを振る姿は、もはや曲芸師。論文投稿は火の輪くぐり。学会発表は空中ブランコ。拍手喝采を浴びる瞬間もありますが、終わってみれば「でも次の契約はないんだよな」と落ち込む。拍手の音は消え、残るのは任期付きポジションの綱渡り。落ちても安全ネットはありません。
アカデミアに残るには教授職という「玉座」を奪い合うしかありません。しかし、その椅子は音楽が止まる前からほぼ埋まっている。しかも椅子の数は年々減少中。「努力すれば夢は叶う」と言われて博士課程に進んだはずが、実際は「努力しても椅子がない」ゲームに参加させられていたわけです。これはもう、知的格闘技というより知的椅子取りゲームです。
「なら企業に行けばいいじゃない」とよく言われます。ところが、企業の門は自動ドアではありません。履歴書を差し出しても、センサーが反応しない。面接に進めば、「研究しかしてないんですね」と言われる。いやいや、研究しかしてないんじゃなくて、研究をしてきたんですけど?世界最先端の課題に挑んできたのに、社会に出ると「未経験者」扱い。研究成果は某N誌やS誌の姉妹誌とかに届いても、履歴書は人事に届かない。これが現実です。
この状況は、個人の悲劇であると同時に社会的な損失です。博士人材は、課題解決力・論理的思考力・データ解析力というスキルの宝庫。にもかかわらず、その宝箱は「開かずの箱」として放置されている。科学技術立国を掲げながら、博士人材を社会で活かせないのは、まるでサーカス団がライオンを飼っておきながら、出番を与えずに倉庫に閉じ込めているようなものです。
もちろん、解決策は一朝一夕には見つかりません。けれど、少なくとも「博士人材は社会で役立たない」という誤解を解く必要があります。企業には「即戦力」だけでなく「潜在力」を評価してほしい。若手研究者には「出口は一つじゃない」と早めに気づいてほしい。そして私自身も、この迷路の中から声を上げ続けたいと思います。
ポスドク生活はサーカスのようにスリリングで、時に笑うしかないほど不条理です。でも、観客(社会)が拍手を送ってくれる日を夢見て、今日も私は綱の上を歩き続けます。安全ネットはないんですけどね。
著者:迷路の住人

