女性研究者座談会



前編:アメリカで研究をするということ(更新日:2026年9月25日)

司会(編集部):本日は、日本人女性研究者がアメリカで研究をするというテーマでオンライン座談会を開催します。研究する場所や研究分野など、さまざまなバックグラウンドを持つ4名の皆さまにお集まりいただきました。この座談会を記事として公開するときは、皆さまの個人情報は明らかにしませんので、今日はどうぞ本音でお話しいただければと思います。それでは、まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?

田中真由美(仮)さん(50代前半:アカデミア):田中真由美と申します。現在、アメリカの某大学でAssistant Professorをしています。専攻は神経科学で、老化や神経変性疾患に関する研究に取り組んでいます。日本で博士号を取得後、ポスドクとして渡米し、その後、紆余曲折を経て今のポジションにたどりつきました。20年以上アメリカで苦労してきたので、今日はそういった経験などをお話しできればと思います。よろしくお願いします。

佐藤彩香(仮)さん(40代前半:インダストリ):佐藤彩香と申します。私は某製薬会社で研究者として働いています。現在は免疫系の研究グループでwet biologyをやっています。夫と2人の子どもの4人で暮らしており、今は育児と仕事の両立に奮闘中です。日本の大学院を卒業した後、アメリカの某大学でポスドクをしていたのですが、グリーンカードを取得して製薬企業での職を見つけました。今日はよろしくお願いします。

中村里奈(仮)さん(30代後半:アカデミア):中村里奈と申します。現在、アメリカの某大学でInstructorとして研究しています。Instructorというポジションは日本では馴染みがないですが、あえて日本の職位に帰ると助教ということになるかと思います。でも、実質はシニア・ポスドクのような立場ですね(笑)。専門は分子生物学で、博士号を取得して2年後に渡米しました。夫も同業です。子供はいません。今日は楽しみにしています。

松本恵子(仮)さん(30代前半:アカデミア):松本恵子と申します。現在、アメリカの某大学でポスドクとしてがん研究に従事しています。日本で博士号を取得した後、研究テーマを広げるために渡米しました。あまり話し慣れていないので緊張していますが、今日はよろしくお願いします。あ、えっと、私は独身です。

田中:あ、私、家族構成について言いませんでしたね。私も独身です。結婚の予定もないです(笑)。

司会:ありがとうございます。今日は研究面だけでなく、プライベートなことについても色々とお話ししていただければと思います。記事として公開する前に、皆様に記事の内容もチェックしてもらう予定にしていますので、今日お話ししたことでも記事にしたくないことがありましたら、そのときにお知らせくださればと思います。それでは、まず皆さんがアメリカで研究を始めることになったきっかけや理由について教えていただけますか?

田中:私の場合は、大学院生の頃から海外で研究したいという思いがありました。特に神経科学の分野では、アメリカが最先端の研究をリードしているという印象が強くありました。まあ、インパクトファクターの高い雑誌に論文を載せるには、アメリカからの方が有利だと聞いていたのもありましたから(笑)。それとは別に、当時の指導教官がアメリカでのポスドクを勧めてくれたことも大きなきっかけになりましたね。

佐藤:私も学生時代からアメリカで研究することにぼんやりと憧れを持っていました。でも、こっちにポスドクとしてやってきて、アカデミアで研究をやっていくのは私には無理かもってすぐに思い始めてしまったんです(笑)。だから、田中さんのように、こっちのアカデミアで生き抜いている人を見ると、素直に尊敬してしまいます。

田中:いえいえ、私はそんなに立派ではないです。アシスタントプロフェッサーとは言っても、私のラボは、大学の中にある一つの研究センターの中のサブグループのようなものですし。

佐藤:私からすると、それだけでもすごいと思います(笑)。

田中:逆に、佐藤さんのようにアカデミアからインダストリに転向する方が大変そうに見えるんですけど、どうですか?

佐藤:私の場合は運が良かっただけかもしれないです。夫も日本人なんですが、こっちで知り合った人なんです。で、その人とお付き合いしていたときから、その人はグリーンカードを取ろうと色々と調べていて、どうせなら結婚して籍を入れてから夫婦そろってグリーンカードの申請をしようということになったんです。今はどうかわからないんですが、私が申請したときは、日本人は他のアジアの国よりもずっとグリーンカードが取りやすかったんです。1年もかからずに、グリーンカードが取れました。で、グリーンカードがあるということで、会社にも採用されたんです。

中村:私もグリーンカード欲しいなと思ってるんですけど、やっぱり弁護士とか雇ったんですか?

佐藤:はい。弁護士探しはじっくりと行いました。なかには悪徳弁護士みたいなのもいたんで注意が必要だと思います。

中村:そうなんですね。

司会:中村さんはアメリカにこれからもいたいと思っているのでしょうか。

中村:ええ、できれば。

司会:アメリカに来られたきっかけはなんだったのでしょうか。

中村:私も博士課程の途中から海外で研究をしたいと考えていたんですが、直接のきっかけは、プライベートなことになりますね。えっと、そのきっかけを話してしまうと、私が誰だかわかってしまうかもしれないのですが、とりあえずお話ししますね。私と私の夫は大学院時代に同じ研究室だったんです。

佐藤:いいですね、そういうの。ロマンチックで憧れますね。

中村:そんな良いものではなかったですけどね(笑)。で、籍は私が博士号を取ったときに入れたんですけど、夫が博士号を取るまでは、それぞれの実家に住んでました。でも、夫が博士号を取ったらどうするかという話をしていたときに、せっかくだから海外にでも行こうかということで、二人してポスドク留学することにしました。

田中:二人とも同じタイミングで同じエリアで職が見つかったのはすごいですよ。

中村:運が良かったんだと思います。

田中:運だけじゃないように思いますよ。お二人とも優秀なんですね。こっちで二人とも独立PI(編集部注:それぞれが自分のラボを持つ)を目指してるんですか?

中村:夫はその道を探っているようですけど、私は違うかもしれません。個人的には、佐藤さんのようにこっちで会社に行くか、日本に戻ってアカデミア研究をするか、で迷っています。夫がこっちにいたいようなので、こちらでの道を探る必要がありそうですけど。なので、グリーンカードが欲しいなと思ってるんです。

司会:松本さんがアメリカに来られたきっかけは何だったのでしょうか。

松本:私はもともと海外でのキャリアは考えていなかったのですが、博士課程のときに、アメリカの某研究チームからの論文を読んで、私もそういう研究をしてみたいなと思ったんです。で、ある学会でそこのボスが日本に来ていて話すきっかけがあり、なんかあれよあれよという間に博士号を取ったあとに、そこのポスドクとして採用されることになったんです。留学するまで海外に行ったことがなかったんで、初めての海外生活で不安もありましたが、周りのみんながサポートしてくれてなんとかなってます。

司会:ありがとうございます。皆さん、ラボやポジションを選ぶときに、何を重視されましたか?

田中:私はやはり、研究内容そのものを重視しました。あとは、ボスの人柄ですね。事前にラボのメンバーに直接連絡を取って、実際の雰囲気を聞いたりもしました。

佐藤:私は正直、当時は選べる立場ではなかったので、オファーをもらえたところに行った、というのが本音です(笑)。でも結果的には、そのラボの雰囲気が良くて、今でも当時のボスとは連絡を取り合っています。

中村:私たちは、二人とも同じ都市、できれば同じ大学でポジションが見つかることを最優先にしていたので、正直、研究内容だけで選べる余裕はあまりなかったです。それでも、なんとか近い分野で見つけられたのは幸運でした。

松本:私は、論文を読んで「この研究がしたい」という気持ちが強かったので、正直、ボスの人柄とかはあまり調べずに飛び込んでしまいました(笑)。今思うと、もう少し下調べした方が良かったかもと思うこともあります。

田中:それも一つの経験ですよ。飛び込んでみないとわからないこともありますから。

司会:ありがとうございます。では、実際にアメリカで研究を始めてみて、どう感じたかについてお願いしてもよろしいでしょうか。

田中:そうですね、アメリカでは、研究者としての自由度が高いと感じています。その一方で、競争も激しいので、常に自分の研究の独自性を高めていく必要があると思っています。あと、やっぱり研究資金の獲得は難しいので、常にプレッシャーを感じていますね。

佐藤:私は企業で働いているんですが、やはりプレッシャーは感じてます。日本とは違って、簡単に人を切りますしね。実は、今の会社はこっちで3社目なんですが、1社目は入社してから1年後にレイオフ(編集部注:会社都合の解雇)されました(笑)。でも、次がすぐに見つかったので、大きな問題にはならなかったんで良かったです。今は、仕事のプレッシャーだけでなく、育児と仕事の両立でちょっと大変です。でも、夫や職場の理解があるので、何とかなっています。

中村:子育てに関して日本よりも周りの理解はありますか?

佐藤:日本では子育てしていないので断言はできませんが、こっちの方が楽かなという気はしています。まあ、日米問わず、働いている場所にもよるのかもしれませんが。

中村:私たち夫婦も子供が欲しいなと思ってはいるのですが、出産・育児で研究を離れてもいいのかなとちょっと不安になってるんです。制限時間も迫っているので(編集部注:出産できる年齢が近づいてきている)、焦りもあるんですけど。

田中:中村さんのラボは、プライベートを重視する雰囲気ではないの?

中村:そういうわけではないようにも思うのですが、アジア人が多いラボで、男性は既婚であれば、専業主婦の奥様を持っている人が多いんです。女性もいますが、独身だったり私みたいに子供がいなかったりで・・・。

田中:ボスはどんななんです?

中村:えっと、プライベートの話はあまりしないですかね。まあ、私に対して「そろそろ子供を産んだ方がいいよ、妊娠中は無理しなくていいから」とかは言えませんしね。

田中:それは、こっちでは一発アウトなセクハラですね(笑)。

中村:でも、子供を持ちたいと思っていたら、それを優先させた方がいいですよ。私みたいなのが言うことじゃないですけど(笑)。

司会:松本さんはこちらで研究をしていて想像と違ったとかいうことがありましたか?

松本:えっと、私はアメリカに来て、失敗を恐れずにどんどん実験するという姿勢に驚きました。

田中:それ、何も考えてないだけってことあります?こっちの人って、日本人のようにきちんと計画して実験する人ってあまりいないんで。

松本:そうかもしれないです(笑)。同じラボに日本人もいるんですけど、その人はきちんとしてます。

司会:研究以外の、日常生活の面でのカルチャーショックはありましたか?

松本:買い物とか、そういう本当に些細なことに驚きました。スーパーのレジの店員さんが、すごくフレンドリーに話しかけてくれるんですけど、最初は何を言われているのかわからなくて、とりあえず愛想笑いをしていました(笑)。

佐藤:わかります(笑)。あと、チップの文化にも最初は戸惑いました。

田中:私はもう長いので忘れかけていましたけど、最初の頃は、上下関係の感覚の違いに驚きましたね。ボスをファーストネームで呼ぶことに、なかなか慣れませんでした。

中村:それ、私も未だに慣れないです。メールとかも、つい「お世話になっております」的な書き出しをしてしまいそうになります(笑)。

司会:困ったこととか大変なことはありましたか?

松本:よくある話だと思うんですが、将来への不安は常にあります。それに、言葉の壁には常に悩まされています。ラボの中では、周りの人たちのサポートでかろうじて何とかはなっていますが。

佐藤:言語の壁は特に大きな課題ですよね(笑)。私は職場だけでなく、子どもたちの学校でのコミュニケーションにも苦労してます。学校行事や親同士の会話は、専門用語を使うラボでの会話とは違う大変さがありますから。

中村:私も英語には苦労させられてますね。

司会:何か対策はしていますか?

中村:英語でのプレゼンテーションは、事前にスライドをしっかり準備するように心がけています。でも、質疑応答とかはボロボロですけど(笑)。

松本:それ、私もです・・・。相手の言葉が速くてついていけないです。

佐藤:愛想笑いだけが上達するっていう(笑)。

田中:私は未だに、電話でのやり取りが一番苦手です。対面なら表情とかでなんとかなるんですけど、電話だと聞き取れないと、聞き返すタイミングも難しくて。

中村:それ、すごくわかります。病院とか、銀行とか、電話で済まされることが結構多いので困りますよね。

佐藤:子どもの学校からの電話とか、緊急連絡だったらどうしようって、いつもちょっと身構えてます(笑)。

一同:(笑)

(中編へ続く)


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