教授と僕の研究人生相談所



第12回(更新日:2014年1月13日)

捏造は捏造であると見抜ける人でないと(研究をするのは)難しい 2ページ目/全2ページ

教授「で、君は捏造をしたことがあるか?」

僕「ないですよ。そんな質問、さすがの教授でも失礼ですよ!」

教授「なんだ、ないのか」

僕「え、教授はあるんですか?」

教授「ないよ。でも、捏造っていうのがどういうものか試したことはある」

僕「どういう意味ですか?」

教授「いいか、発表された論文の中の捏造データが発覚するのは、捏造した人間が自ら公表するか、関係者による内部告発か、第三者が発見するか、しかない」

僕「はぁ・・・」

教授「1つ目は良心の呵責に堪え兼ねて、というよりはむしろ、自爆テロのような感じで指導教官などを告発したいという動機が多い。まあ、匿名で告発することもあるから、2つ目の内部告発に近いかもしれない。で、3つ目は発表データに明らかにおかしな点があるところを第三者によって突っ込まれる、という流れだ」

僕「おかしな点とは?」

教授「大まかに言えば、Western Blotの写真の使い回し、染色像の使い回し、エラーバーの大きさが同じ、各種データの波形が類似、とかだな。他には、染色像から都合の悪い箇所を削除してしまうということもある」

僕「そんなことって可能なんですか?」

教授「可能だ。実際に確かめてみた。と言っても、俺が試したのは画像処理ソフトを使って、複数のWestern Blotの写真から全く新しい架空のデータが出来るか、とか、ある1つの染色像を全く別の染色像に見せられるか、くらいだ」

僕「で、どうでしたか?」

教授「それがな、思っていたよりも簡単に出来た。正直なところ驚いたよ。もちろん、良く見たらおかしく見えるものもあった。だが、俺みたいな機械オンチでもちょっと練習すれば出来るくらいだから、コンピュータに詳しい奴ならば、もっと上手に出来るだろう」

僕「じゃあ捏造データは見破れない、ということですか?」

教授「ああ。世の中に出回ってる捏造データの中には100%見破られないものも多くあるだろう。そもそも、そんな画像処理ソフトを使わなくても、Western Blotならば、各Laneに流すLoading量を操作すれば、どんなバンドでも得られる。そういうデータは俺らには絶対に見破ることは出来ない」

僕「そんなことするんですか?」

教授「俺らの常識からしたらしない。が、倫理観の薄い奴、もっと言えば倫理観のない奴というのも世の中には存在するんだ。仮に俺らの思う常識的な倫理観を持っていたとしても、教授なり上の奴らに精神状態がおかしくなるくらいプレッシャーを与えられていたら、常識的な倫理観などは吹っ飛ぶ」

僕「じゃあどうすればいいんですか?」

教授「何をだ?世の中の捏造なんて見破る必要なんかない。ただ、捏造論文があるということは理解するべきだし、周りが捏造している可能性がゼロではないということも理解するべきだ」

僕「なぜですか?」

教授「自分の研究プロジェクトを進めるときに、参考にしていた論文が捏造かもしれないという可能性を考えていないと、最悪の場合は研究プロジェクトが終わる。それに、自分の研究室を持っている場合は、研究室メンバーが持ってきたデータが捏造であるかもしれないという目で見ないと、都合の良いデータを持ってくる人間だけを重用して研究室そのものが潰れる。そういう場合は職を失うことになるんだ」

僕「でも、捏造論文が溢れてる中で自分だけ真面目にやってたら競争に勝てないような気もしますが」

教授「その通りだ。今のバイオ業界は正直者がバカを見る世界だ。だが、そんな状況でも、ホンモノの優秀な研究室や研究者はいる。きれいごとに聞こえるかもしれないが、俺としては、そういう研究者たちに習って自分も正当法で生き抜いていきたいとは思うし、これから研究者を目指す若者にもそうなってほしい。だが、そのためには、正当法でない戦い方をする奴がいることを理解し、そういう奴らの手法を学んでおかなければいけない。自分がダークサイドに落ちるんじゃなくて、ダークサイドに落ちた奴と戦うための方法を学ぶためだ」

僕「では、今回の相談者はどうすれば良いですか?」

教授「相談内容を見る限りでは、相談者に対して捏造をさせるようなプレッシャーはないようだ。だから、なるべく捏造している奴らとは関わらないようにすればよい」

僕「関わらない、とは?」

教授「捏造データを使った論文の共著者にならないようにすることだ。まあ仮に捏造論文だと後に発覚しても、学生時代の共著者論文は目立たない。だから、これに関しては、そんなに神経質にならなくてもよい」

僕「なるほど」

教授「あと、辛いかもしれないが、捏造をしているグループとは敵対しないことだ。正義感にあふれた人間からは怒られるかもしれないが、見て見ぬ振りが一番良い。ただ、そういうグループの仲間になってはいけない。彼らの捏造の手法を学ぶのは良いが、自ら捏造に手を染めてはいけない」

僕「学ぶのは良い?」

教授「捏造の手法を学んでおけば、論文とかを読んだときに、これは捏造くさいぞ、と疑うことが出来る。蛇の道は蛇、だ。それに、相談者が将来どのような道に進むかわからないが、実験データの捏造なんてのは国内外や企業アカデミアを問わず、どこでもありうる。今のうちに身近に捏造してる奴がいる場合の対処法を学ぶのも良いだろう」

僕「では告発とかは考えない方が良いと?」

教授「自分の身の安全を一番に考えることだ。自分の身は自分でしか守れない。世の中を良くするために我が身を犠牲に、という考え方を否定はしないし、むしろ尊敬するが、俺は教え子とかにアドバイスをするときは自分の身を第一に考えろと言うからな。まあ人それぞれだ。告発したければしてもよいが、それは俺のスタイルとは微妙に異なる」

僕「どうもありがとうございます。新年1発目からドロドロした内容になってしまいましたが、相談者が大きなトラブルに巻き込まれないことをお祈りします」

教授「ま、研究の捏造発覚なんてのはこれからもっと増えるよ。今年も大きな捏造が新聞を賑わすだろう」

僕「予言ですか?」

教授「いや予言じゃない」

僕「え?」

教授「まあ気にするな。じゃあ今回はここまでだ」

僕「何か微妙に気になる終わり方ですが、それでは次回もお願いします」

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執筆者:「尊敬すべき教授」と「その愛すべき学生」

*このコーナーでは「教授」への質問を大募集しています。質問内容はinfo@biomedcircus.comまでお願いいたします(役職・学年、研究分野、性別等、差し支えない程度で教えていただければ「教授」が質問に答えやすくなると思います)。

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