研究者の声:オピニオン



2012年2月5日更新

研究の報道について(1ページ目/全4ページ)

著者:今村文昭。米国タフツ大学で栄養疫学の博士号を取得し、現在はハーバード大学公衆衛生大学院の循環器系疫学のグループにリサーチフェローとして在籍。電子メールはfimamura[a]hsph.harvard.edu([a]は@)、URLはhttp://www.hsph.harvard.edu/research/fumiaki-imamura/

お断り:本記事は2009年11月にJaRANの研究者コラムを転載したものとなります。記載してある内容は2009年11月の時点での情報です。

人のデータを基に因果関係を推察・提言するための科学を疫学(Epidemiology)は扱います。たとえば、古くから、1つの病気が、細菌による感染に起因するのか、栄養失調に起因するのか、環境汚染に起因するのかなど、そういった健康状態の原因に関する疑問に科学的に応える活躍をしています。社会性が強い学問でもありますので、疫学研究の成果は報道の対象となることが多いのが実際です。最近では、薬剤や慢性疾患の疫学、インフルエンザの疫学には、興味関心が湧くところかと思います。

 私はジャーナリズムやヘルスコミュニケーションの専門家ではありませんが、疫学を学んだものとして、報道の価値を重んじています。このコラムでは疫学においても議論が巻き起こった報道の事例を紹介し、さらに最近の生命科学研究の報道の特徴について紹介したいと思います。研究だけでなく、最近のインフルエンザなど報道など公衆衛生や科学の関係する報道に触れるにあたって、このコラムがそうした報道について客観的に考察するための素材として役立ってくれればと思います。学術論文を書くのでしたらSystematic Reviewという形で、現状を紹介し問題点を整理したいのですが、ここでは簡易に任意のReviewとして現状で考えられることとして紹介いたします。なお、本内容はKagakusha.net(http://kagakusha.net/)に寄稿した内容とオーバーラップすることがありますがご了承ください。

 健康に関する多くの情報が巷に溢れているのは、ご周知のことと思います。最新の研究がいち早く公に報道されるというのは、素晴らしいことです。研究者にとってはモチベーションにもなりますし、一般の方々にとっても知識の糧となり、実生活に活かせることであればなおよいことでしょう。

 しかしながら、テレビ、新聞、雑誌など、どんな情報源でも、そういった情報には危険がはらんでいます。2007年に放送終了となった『発掘!あるある大事典』のデータの捏造など、記憶に残っていることかと思います。そういった情報は必ずしも悪意があるわけではありません。客観的に専門家が考えれば、科学的に問題があったとしても、研究を行った科学者もその科学者の報告に興味を持ったメディアも、公に科学・公衆への貢献を伝えたいと考えるものでしょう。

 しかしどんな研究にも、時に致命的な問題点があるものです。そうした問題点が正しく公に伝わり、理解されることが理想ですが、情報の簡潔さなどのバランスの問題で、実際には安心できる情報はないのが現状です。研究には専門家にしか理解・議論できないであろう問題ということもあり、そうしたケースは公の報道がカバーすることは困難でしょう。そんな状況でも、どんな情報が供給されるのがよいのか、どんな疑問点を抱いていればよいのか、どこまでの解釈を限界として考えればよいのか・・・といった点について理解を深め、整理することは価値のあることと思います。

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