研究者の声:オピニオン
Tweet2017年2月6日更新
バイオの研究者を目指す学生が知っておくべき7つの項目
1. 研究者(研究職)に求められる資質が変わってきた
いまや世界中のいたるところでバイオ系学術分野の博士号所持者が溢れている。それに伴い、博士号を持っているということには、ほとんど意味も価値もなくなってしまった。そのため研究者として生活していくには、「これまで何を成し遂げてきたか」、「今現在何が出来るのか」、「将来何をしていけるのか」等を、他人に理解してもらえるように説明できる必要がある。一昔前の研究者に対する一般的なイメージである「自分の世界に入って黙々と研究(実験)に没頭する」という姿勢では、研究者として生きていけなくなってきた。
2. 研究遂行に関わる規制が厳しくなってきた
バイオの研究業界が成熟するに従い、種々の規制が細かく厳しくなってきた。何か一つの小さな実験を始めるにも、実に様々な書類が必要となってきている。基礎実験であっても、DNA関係、ヒト由来培養細胞、ヒト由来サンプル、ウイルスベクター、実験動物、毒性のある試薬、のどれか一つでも実験に使用するとなると、何かしらの書類提出と関連部門からの承認が必要となる。そのため、「ふと面白いアイデアが浮かんだから試しに実験しよう!」となっても、それを実際に実験するまでに相当の時間と労力がかかることになってしまった。
3. 研究発表までに要する労力が増してきた
研究発表をするための主要な方法は、論文として自らの研究成果を発表することである。しかし、学術雑誌に自分の論文を掲載してもらうためにはPeer-Review(同業者による論文査読)が必要である。このPeer-Reviewシステムには色々と問題があるが(参考)、それら問題のなかでも、Reviewer(査読者)からの追加実験要求が近年とても厳しくなってきたことが研究者を苦しめている。「追加実験の内容だけで、10年前なら一つの論文が書けてしまうデータ量になる」というようなことが珍しくなく、また、一つの論文を発表するための追加実験だけに1年以上かかるということも今では普通のことになってしまった。しかも、このような傾向は今後も続くことが予想されるため、自らの研究成果を多くの人に知ってもらうための研究発表に要する時間と労力は、今後も増加し続けるであろう。
4. 独立したポジションに就くのが非常に困難
研究者であれば、自分の研究室を持ち、自分のアイデア・仮説・理念に基づいて研究活動をしたいと願うのが普通であろう。だが、今ではその願いを叶えるのは非常に困難になってしまった。上記3つの要因で研究活動を行うための枷が増えたのにも関わらず(ある意味では、それら要因の当然の帰結として)、自らの研究室を持つことへのハードルが年々厳しくなってきてしまった(参考)。そして、残念ながら、その厳しさが緩和される見通しはほぼない。したがって、ほとんどの研究者は、リタイア(退職)するまでには独立したポジションに就けなくなり、一生誰かの下で他人のアイデア・仮説のために日々ひたすら実験や雑用をすることになる。
5. 独立したポジションを確保するのも困難
仮に独立したポジションに就けたとしても、待っているのは過酷な生存競争である。研究費を獲得することは年々厳しくなってきている。また、実験遂行に必要な書類が増してきたように、研究費獲得のための申請書にも実に様々な内容の書類が求められるようになってきた。さらに、研究費申請書の可否を判断するのにもPeer-reviewシステムが採用されており、申請した研究内容の修正作業(追加実験等)に追われる日々が続くことは珍しくない。すなわち、実験遂行のための書類作成、論文査読コメントのための追加作業、研究費申請書の修正作業だけでも自分の時間の大部分が使われてしまうことになる。それに加え、独立したポジションに就いた研究者は、今度は逆に自分が他人の論文や研究費申請書を査読する立場にもなっており、そのようなタスクもこなすことが求められる。また、当然のように種々の委員会の会議、部下(ポスドク)の実験進捗の管理や彼ら・彼女らの研究者としての育成、学生の教育、なども独立したポジションに就いた研究者の職務内容に含まれる。そのような状況で、独立したポジションに就いた研究者が「自分のアイデア・仮説・理念に基づいた研究活動」を満足に行うことができるのだろうか。
6. ポスドクに求められる働きが厳しくなってきている
大学院を卒業し博士号を取得したとしても、独立したポジションに就くためには誰かの研究室でポスドクとしてトレーニングを行わなければならない。そこでの上司は当然、そこの研究室の主宰者(独立したポジションを得た研究者)となる。これまで見てきたように、そのような研究者は、そのポジションを確保・維持するために多大なる労力と犠牲を払っている。そんな人たちが、自分の部下となるポスドクに対してどのような対応を取るか(どのような働き・働き方を求めるか)は敢えて説明する必要もないだろう。
7. 研究仲間となる人たちのこと
今は情報化社会である。バイオの研究業界が今現在どのようなものか、そしてこれからどうなっていくか、はちょっと調べるだけでかなりのことがわかるようになってきた。そんな中、敢えてバイオの研究者になりたいと足を踏み入れる人はどんな人たちなのだろうか。そこには、「良い意味でも悪い意味でも普通で常識的な人間」は含まれるのだろうか。充実した研究人生をおくるためには「何をするか」も大事だが、「誰とするか」はもっと重要かもしれない。誰が(どのようなタイプの人間が)自分の同僚になるのであろうかと考えるのも、自分の将来の進路を決めるためには必要だろう。
執筆者:J・K
バイオの研究者がどんなことを考えて研究しているかがわかる一冊です!