海外ラボリポート



林正道 博士 〜University College Londonから(2011年06月01日更新)

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渡英してまず驚かされたのは、研究者がとれたての研究データや、立案段階のプロジェクトの内容を、セミナーなどの場でかなりオープンにしていることです。未発表のデータや、新しく始めるプロジェクトの内容を人に話すということは、ディスカッションで得られた意見を実験や論文に反映しやすくなるという一方、他者にアイデアを奪われてしまうというリスクも伴います。しかしながらUCLには非常に多様な研究テーマや技術をもった人たちがいること、経験豊富な研究者も多いことを利用し、あえて情報をオープンにしてディスカッションを積む方がよいと考えられているのでしょう。そのため研究所内ではいつもリアルタイムで興味深い情報が入ってきていたように思います。

さらに大学の外から刺激を受けることも多くあります。UCLには私の滞在したICNだけでなく、Institute of Neurology (ION)、 Institute of Child Healthなど認知神経科学に関係の深い研究施設が多くあり、ロンドン大学に含まれる他大学を含めるとさらに規模は膨らみます(UCLはロンドン大学と呼ばれる大学群の一つです)。各研究所はそれぞれ週に1,2度、外部の研究者を呼んで講演をしてもらう公開型のセミナーを開催しており、自分の所属している研究所以外のセミナーでも気軽に参加することができます。関連するすべてのセミナーに行っていたらそれこそ仕事にならないほどの量です。

lab report #01-2

また、UCLで特徴的だったのは、研究に関するセミナー以外にも解析手法に関するセミナーや、ポスドクのキャリアアップのためのセミナーなどが充実していたことです。私が滞在中にICNとIONの共催で開かれたセミナーでは、「どのようにして採択されるグラント申請書を書くか」「グラント・フェローシップの審査委員会は何を審査しているのか」、「ハイインパクトな雑誌に論文を載せるにはどうしたらよいか」、「ポスドクの期間にどのようにしてキャリアアップを図るか」といったテーマについて、UCLのPIたちが隔週で講義するというものがありました。これはまさに駆け出しの研究者が経験を積んだシニアの研究者から学びたい内容で、非常に素晴らしいものでした。このように若い研究者を対象にしたスキルアップのための教育環境があるということも、研究のクオリティの高さを長期間に渡って維持し、優秀な研究者を輩出することに貢献しているのでしょう。

 このような研究環境の充実により、研究所は常に自由闊達な雰囲気に包まれていますし、そのような環境を求めてさらに多くの良い人材が集まってきます。その中で多くの素晴らしい研究成果が産まれるというのは、むしろ必然なのかもしれません。

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このような研究環境のある場所へ留学することは、自分の研究をすすめる上で大きなメリットになりますが、一方「研究のための留学」一般に存在するデメリットもないとは言えません。海外に引っ越すことによって環境を一から構築しなければならないわけですから、それは研究の進捗の足かせにもなります。研究環境だけでなく、国内の移動では特に問題にならない様な保険や税金等の手続き、住環境の整備も日本とシステムの異なる海外では一苦労します。

さらに文化的な違いがストレスになる場合もあります。例えば実験の被験者が約束の時間に遅刻して来ることや、突然キャンセルはざらにあるというのも、比較的約束をきちんと守る日本人にとっては驚きです。出したメールになかなか返信がこない事も多々あります。新しい食文化にも適応しなければなりません。

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