海外ラボリポート



志賀隆 博士 〜米国マサチューセッツ総合病院から(2012年01月05日更新)

患者安全と医学教育 -高性能マネキンによるシミュレーション-(3ページ目/全4ページ)

マサチューセッツ総合病院では、造影剤に対するアレルギー反応に放射線科レジデントがいちはやく対応できるように、放射線科と共同教育プロジェクトを始めています。

まずは放射線科の治療プロトコールを協同で再検討しました。それまで院内のエピネフリンは、異なる濃度のものや数種類の薬形があり、医療ミスを招く危険があったため、全て投与の簡単な使い捨てキットのものに変更・統一しました。その後更なる改訂を経てプロトコールが決まった段階で、レジデントにシミュレーションを通じてアナフィラキトイドの認識と適切な治療を教えています。

ハーバード関連の教育病院では、このようにシミュレーションを使って急変時の対応をトレーニングする科に対して、医療過誤保険の掛金を減額するインセンティブがあります。麻酔科や産婦人科では、トレーニングを受けた医師は過誤による支払いが少ないというデータも出ています。

今後、中心静脈カテーテルのトレーニング、産婦人科や小児科のチームトレーニングのプロジェクトにも参加していく予定です。

3) ERで働く救急医について

私はERで働く救急医です。渡米した一番のきっかけは、自分の能力や不安の問題で患者を断ることなく、せめて入り口を確保することで、日本の救急医療に貢献できないかと思ったからです。日本の医療は医師のマンパワー不足と厳しい診療報酬の問題から救急車受け入れ不能による問題や悲劇が毎日の様に起きています。日本の救急医療はモータリゼーションの中でおきた交通事後に対応するために外科系医師とICUで働く集中治療医を中心に発展してきました。嘗て救急医の数がいまよりもさらに限られていたために、最重症の患者を主に診ることをプライオリティとしてきました。

これを理論上可能にしたのは救急隊や患者自身が病院到着前に重傷度を判断できるという仮定でした。今、この仮定の不完全性が最近注目されています。外傷では重傷度の判定は血圧・脈拍・意識レベル等から比較的簡単に把握可能ですが、内科領域の救急では病院で問診をしたり・身体所見をとって更に検査をしても難しい症例もありそれを患者自身や救急隊が病院到着前に判断することは難しいのです。

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