研究者のためのライフハック的思考術
Tweet第2回(更新日:2013年10月28日)
手帳を選ぶ
「研究者のためのライフハック的思考術」というタイトルの連載の2回目です。この連載では、研究者としてのキャリア構築を効率よく進めるに、どのようにライフハック的な考え方を実践するかを考えていきます。
前回は研究者としての目標設定を行う方法を紹介しました。そのようにして紙に記した目標は、常にアクセスできる状態にしておくことが必要です。なぜなら、ライフハックは業務の効率化に焦点を当てた仕事術であるため、自らの目標を忘れてしまうとライフハック的な思考法は意味がないからです。
紙に書いた目標を手の届く範囲に置いて置く方法として、私は手帳とともに携帯することをお勧めします。手帳はライフハック的な思考術に必須なので、ライフハックに興味があるけれども手帳を持っていないという方がいたら購入を検討してみてください。
10月から11月にかけて数多くの種類の手帳が店頭には並びます。しかし残念なことに、日本に比べるとアメリカ東海岸で手に入る手帳の種類は少なく、また手帳の質も高くはありません。ですが、それでも使いやすい手帳はいくつかありますので、今回は私の経験をもとに海外でも比較的容易に入手できるお勧めの手帳を紹介します。
1. MOLESKINE
イタリアのモレスキン社による手帳です。硬い黒表紙と手帳を閉じるためのゴムバンドが特徴です。発祥は19世紀後半と歴史があり、作家や芸術家を含め多くの分野にファンがいます。紙質は日本製の手帳には及びませんが、普通に使う分には気になりません。無地、罫線、時間軸つき、など色々な種類があり、サイズも複数あります。BordersやBarnes & Nobelといった大型書店で入手できます。
2. QUO VADIS
フランス製の手帳です。日本の手帳ブームを牽引した一人に佐々木かをり氏という方がいるのですが、その人が考案した手帳の元になったものがQUO VADIS社の手帳だと言われています。この手帳の紙質も日本のものと比べるとやや落ちますが、日本人好みのレイアウトの手帳が多いため使いやすいです。BordersやBarnes & Nobelといった大型書店で入手できます。
3. Letts of London
イギリスのレッツ社による手帳です。シンプルかつ機能的につくられています。無駄を省いた作りとなっており、他社製の手帳に比べて薄くて持ち運びに便利です。私が調べた範囲ではBordersやBarnes & Nobelなどの書店には置いていませんでしたが、文具屋で見つけることが出来ます。
4. Franklin Covey
自己啓発書として有名な「7つの習慣」の考え方を応用した手帳です。アメリカ製でありながら、紙質は驚くほど高品質です。手帳のラインナップは豊富で、各個人の目的に合わせた手帳を見つけることができます。しかし、この会社の手帳形式は基本的にバインダー式なので携帯性にやや難があります。また、他の手帳に比べると値段もやや高めです。Franklin Covey専門のお店で入手することができます。
上記の手帳は全て私自身が使ってみたことがあり、日本で入手できる手帳と同じような感覚で使用できるものを挙げました。ただし、手帳の好みは人により大きく異なるので、手帳を購入するときには実際に店頭で実物を触ってみることをお勧めします。
さて、今回は最後に、「目標設定」および「ライフハック」に関して注意しておくべきことをお伝えしておきます。
前回も少し触れましたが、ライフハック的な思考をするために目標設定は必須です。そして、その目標設定の重要さを証明するものとして非常に有名な調査結果があります。
それは、1953年にイェール大学卒業生を対象に行われたものです。その要旨を簡潔にまとめると、「具体的な目標がありますか?」と「その目標を紙に書いていますか?」の両者にYesと答えた卒業生の割合は3%だったにも関わらず、20年後の追跡調査ではその3%の卒業生の資産はその年の卒業生全体の資産の97%にもなっていた、というものです。また、その3%の卒業生の目標は20年後の追跡調査で驚くべき達成率を果たしていたようです。
今では、この話はアメリカだけでなく日本を含む様々な国にまで広がっています。そして、「目標を設定して紙に書く」ということはライフハックの世界では常識的なこととして考えられています。また、多くのコンサルタント会社なども積極的にこの話を例に出して目標設定の重要さを説いています。
しかし、この調査が行われたという証拠は実は存在していません(イェール大学の公式サイトにも明記されています)。つまり、これは良く出来た創作話ということになります。
ライフハックに関する連載内で記載するべきことではありませんが、ライフハックや自己啓発的なものを紹介した記事/団体には、不正確な情報に基づいた説明が往々にして見られます。ライフハック的な考え方に触れてこなかった人の中には、ライフハック(自己啓発的なものを含む)の説明を聞いて「目から鱗が落ちる」状態になることがあり、その内容が間違っていても簡単に騙されてしまうことがあります。
とはいえ、目標を設定して紙に書くことの重要性は否定されるものではないと私は考えています。自分の例で恐縮ですが、私が2005年に設定して紙に書いておいた2010年の目標の達成率は75%程度でした。この数字が高いか低いかについては議論が分かれるところですが、もしこの達成率は悪くないと感じる方はぜひ目標を設定して手帳とともに持ち歩いてみてください。
次回は、ライフハックの世界で最も有名な仕事術の一つである「Getting Things Done(GTD)」について紹介します。
本記事は2010年~2011年に北米東海岸の研究者ネットワークJaRANのメールマガジンで連載されていた記事を転載したもので、記載してある内容は連載当時の情報となります。