読書感想文:「ポストドクターの正規職への移行に関する研究」を読んで



その1(更新日:2014年06月14日)

執筆者の見解

文部科学省の科学技術・学術政策研究所が報告した「ポストドクターの正規職への移行に関する研究(http://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-DP106Fullj.pdf)」が、ポスドク問題に関して新たな議論を呼びおこしそうです。

すでに、いくつかのマスメディア等が、この報告書の内容を「ポスドクの正規職への移行は大卒の人たちよりも大変だ」という論調で報じています。

例:
 http://www.nistep.go.jp/archives/16860
 http://www.huffingtonpost.jp/science-portal/postdoc_b_5471118.html
 http://www.j-cast.com/kaisha/2014/06/12207439.html

ライフサイエンス業界にいる人間であれば、何を今更、という感想を持つ方も多いと思います。事実、私もこの報道を目にしたときは、「国がまた当たり前のどうでもいい調査に税金をつぎ込んで無駄遣いしてるよ、そもそもポスドクが増えたのは国の施策の失敗であって、自分の失敗でポスドクを増やしてそのポスドク達が大変だという調査結果を出すなんて、マッチポンプもいいところじゃないか!」と失礼な(?)感想を抱いて、ちょっと『激オコ』状態になってしまいました。

とは言え、こういうのは、きちんとオリジナルの報告書を読んでみないと真に意味するところを間違えていたりするので(教授と僕の研究人生相談所で、研究者ならきちんとオリジナル論文を読め、って教授も言っていますしね。話は変わりますが、この連載面白いですよね!)、文部科学省のサイト(正確には、文部科学省直轄の国立試験研究機関である科学技術・学術政策研究所のサイト)に行って件の報告書のpdfをダウンロードして読んでみました。

すると、ニュースでは触れられていなかった面白ポイント(?)が出るわ出るわで、思わずオピニオンのコーナにでも掲載してもらえないかなーと思って文章にしてBioMedサーカス.comさんに送ってしまいました(話は変わりますが、オピニオンのコーナーの『無題』って文章はすごいですよね。何ていうか、心にグッサリとナイフが突き刺さるような、それでいて理由のわからない冷や汗とか出ますよね。)。

そしたら何と(!)、私の文章を少しエクスパンドした連載(*ルー大柴みたいですね。ちなみにエクスパンドはexpandと綴ります。さらに、編集部の方のメールにはエクスパンドという単語はありませんでした)をお願いできますか?と言われました。

私の文章を掲載してくれるだけでなく連載までさせてくれるなんて、BioMedサーカス.comさんはなんて懐が深いんだろうと思いつつ、以下の文章はあくまで私個人の意見によるもので、BioMedサーカス.comさんの見解とは異なる可能性があることを最初に断っておきます。

ま、私はBioMedサーカス.comさんと何の関係もない一人の野良研究者なので、こういう「お断り」は問題ないと思ってます。え、なんでそんなことをわざわざ言うのか、ですって?それは今回の連載を最後まで全部読んだら解りますよ(微笑み)。

***

さて、ということで、この「ポストドクターの正規職への移行に関する研究」の報告書の突っ込みどころを紹介していきます。第一回目の今回は、「執筆者の見解」です。

本報告書の表紙(1ページ目)には、当然のことですが、研究(調査)のタイトルと執筆者が記載されています。それによると、執筆者は二人で、ともに所属は文部科学省の科学技術・学術政策研究所の第1調査研究グループというところのようです。(カッコいい所属先ですね。こんな所属先だったら、名刺を渡すとき思わずドヤ顔になってしまいそうです。)

で、2ページ目でいきなり絶句してしまいました。

2ページ目には本報告書の注釈が二つ記載してあります。一つ目は「本DISCUSSION PAPER は、所内での討論に用いるとともに、関係の方々からのご意見をいただくことを目的に作成したものである。」とあり、これは特に問題ないです(日本語なのにDISCUSSION PAPERと横文字になってるは気になりますが、きっと執筆者の人たちもルー大柴を崇拝してるんだと思います。って、若い人はもうルー大柴って知らない?)。

ま、いずれにしろ、色んな人からの意見を聞きたいようなので、今回の私の文章も、執筆者達の目的に沿っているのではないかと思います(思っていいですよね??)。

問題は二つ目の注釈の方で、「また、本DISCUSSION PAPER の内容は、執筆者の見解に基づいてまとめられたものであり、機関の公式の見解を示すものではないことに留意されたい。」とあります。

「マジっすか?」というのが、この文章を読んだときの率直な感想です。

次回以降で触れますが、今回の報告書は、国が税金を使って行った調査のデータ(2009年度に実施した「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査−大学・公的研究機関への全数調査」)を用いています。そして、そのデータを用いて解析&発表したのは、文科省に所属する人たちです(正確には文科省直属の国立の機関のようですが)。で、報告書を発表した媒体も文科省のサイトです(正確には文科省直属の国立の機関のサイトですが)。なのに、報告書の内容は「執筆者の見解」であって「機関の公式の見解」ではないということはどういうことなのでしょうか。

この注釈って、万が一その報告内容に問題があっても、その場合は

文部科学省「俺カンケーないよ(知らんぷり)」

と出来るように予防線を張ってるということなのでしょうか?

でもそれって、例えて言うならば、理研C○Bに所属する研究者が理研CD○のリソースを使って理研○DBから論文(弱酸溶液に浸すだけで万能細胞が出来る、とか?)を出しているのに、そういう論文に問題があったとき、理研CDBが研究論文の内容は「執筆者の見解」であって「機関の公式の見解」ではありません、だから僕ら(理研)には責任はありませんよ、って言ってもいいということと同義ではないでしょうか。(例えに深い意味はありません。念のため。)

何と言うか、この時点(まだ2ページ目!)で早くもこの報告書の意味合いは薄れてしまったように思いました。だって、これってチラ裏(チラシの裏にでも書いておけばいいようなどうでもいい内容)っぽくないですか?

だって、この報告書の内容って執筆者個人の見解なんですよ?チラ裏は言い過ぎだとしても、そんなのブログとかでもいいじゃないですか。

わざわざ税金を使って文科省所属の人(正確には文科省直属の国立の機関のようですが)が文科省のサイト(正確には文科省直属の国立の機関のサイトですが)で報告してるのに、「機関の公式の見解ではない」なんて、おかしいんじゃないですか?それとも、お役人にとっては、これが普通の社会でのありようだと思ってるんでしょうか?所詮、ポスドクを含む研究者らは社会経験もないお子様だって言いたいんですか!(論理の飛躍&逆切れ)

と、まあこんな感じで他のツッコミポイントについても長々と文章を書いてBioMedサーカス.comさんに送ったのですが、編集部の方に「長くてこんなのオピニオン記事に載せられねーよ、何回かに分けて書き直してこい(意訳)」と言われてしまったので、自分の文章を小分けにして第1回目となる記事を書いてみました。なんか尻切れトンボ気味でスンマセン。

ただ、実は私が一番突っ込みたかったのは、このポイント(「機関の公式の見解ではない」と明言してるところ)だったりするので、これ以降のツッコミポイントは、消化試合みたいなものです!(ビックリマークの使い方を間違ってる)

とりあえず、この短期集中連載の第1回目はこれで終わりです。第2回目は、(多分)来週あたりに掲載されるのではないでしょうか(実はまだ最終原稿は書き終えていない)。

ということで、来週までサヨウナラ。ちなみに、「本RENSAI KIJIの内容は、執筆者の見解に基づいてまとめられたものであり、掲載媒体の公式の見解を示すものではないことに留意されたい」ということを再度お伝えしておきます(大事なことだから2回言わないとね(ハート))。

執筆者:広義の意味でのポストドクター
 (注:この意味は次回明らかになる予定です。予定は未定のことが多いですが)

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