Nature/Scienceのニュース記事から



第8回(2011年5月24日更新)

副作用のない鎮痛薬の合成に成功

化学者たちが、鎮痛薬として期待される天然化合物の合成に成功した。この化合物は、現在使用されている鎮痛剤が示すような副作用を持たないかも知れない。

pinwheel flower(学名 Tabernaemontana divaricata)と呼ばれる低木の花は、古来より中国やタイ、アユルヴェーダの解熱鎮痛薬として使用されてきた。しかし、この花が持つ有効成分は微量であるため、医療への応用について研究するのが困難であった。このほどスクリプス研究所の研究チームが、この花の有効成分conolidineを合成することに成功した。彼らは、合成したconolidineを用いて薬理作用の研究を行って、conolidineが鎮痛作用を持つことを明らかにし、Nature Chemistryに発表した (Tarselli, M. A. et al. Nature Chem. 3, 449-453 (2011))。

pinwheel flowerは様々なアルカロイドを含んでいる。これらのアルカロイドは炭素からなるいくつかの環を基礎とする骨格を持ち、このうちいくつかの化合物は既に鎮痛薬の候補として研究されている。しかしながら、これらはモルヒネと同じくオピオイドに分類される化合物である。

オピオイドは依存性があり、さらに吐き気や呼吸困難などの重大な副作用を持っている。しかし、Conolidineはオピオイドとは異なるため、そのような副作用のない鎮痛薬として使用できる可能性がある。

スクリプス研究所の化学者Glen Micalizioとその同僚たちは、元々はこの化合物の薬理作用に興味を持っていたわけではなかった。むしろ彼らは、この化合物の複雑な炭素骨格が、最近自分たちが開発したタイプの反応を試すためのターゲットとして理想的であると考えていた。天然物の分子の複雑な骨格を合成するのは広く試みられていることであるが、各分子がそれぞれに異なる難しさを持っている。この研究チームは、conolidineの最終的に環構造が閉じる前の、分子の両端がぶらぶらしている中間生成物を作る方法を突き止めた。

Conolidine分子は2つの鏡像異性体を持っている。この研究チームはその両方を、市販の同じ分子から合成することに成功した。まずかれらはこの市販の試薬を2つの鏡像体へと変換し、酵素を用いてそれらを分離した。さらにあと8つのステップを経て、最終生成物を合成した。当然、各合成ステップで副生成物が生成するため、最初の材料が全て目的の化合物になったわけではないが、最終的には18%という大変高い収率が得られた。

研究チームは、conolidineの合成方法を発見してから初めて、その生物学的効果を調べるために薬理学者に相談した。類似の化合物が鎮痛作用を持つことは以前から知られてはいたが、天然物からは充分な量のconolidineを精製できなかったため、研究をすることも困難であった。 ConolidineはT. divaricataの0.100014%しか含まれていないためだ。

研究チームは、合成したconolidineを用いたマウスでの試験において、conolidineが炎症性痛覚を抑制することを明らかにした。さらには、conolidineの作用機序はオピオイドとは異なることがわかった。

モルヒネやその他のオピオイドは、神経伝達物質であるドパミンの量を増加させることにより、マウスの動きを制御している運動中枢の活動を上昇させる。この、ドパミンを上昇させるという作用機序が、オピオイドの依存性に関係していると考えられている。しかし、conolidineは自発運動に影響しなかったことから、ドパミンの上昇を引き起こさないことが示唆された。conolidineがどのようにして痛みを抑制するのかを突き止めることが今後の課題である。

もしconolidineが臨床試験で成功したとしても、Micalizioらの合成方法が大量合成に使えるかどうかは調べる必要があるだろう。しかし、Micalizioは「これはきっと、良いスタートだと信じている」と言う。彼はさらに、この植物から取れる化合物の中にはconolidine以外にも薬になりうるものがあるだろうと考えている。

http://www.nature.com/news/2011/110523/full/news.2011.313.html

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