Nature/Scienceのニュース記事から



第11回(2011年6月27日更新)

インドの後発医薬品大手が日本に狙いを定める

インドの医薬品産業は、ヨーロッパの厳しい特許を回避して、成長する日本の市場を開拓することを目指す

インドが1970年に特許保護を廃止して以来、インドの後発品医薬品産業は景気づき、貧しい国々のライフラインとしてHIVの薬などを提供して多くの命を救ってきた。そして今インドは日本のような豊かな国の薬工場になろうとしている。

しかし、インドの製薬会社が東を目指すのと同時に、医療制度に関する市民団体は、後発医薬品に対するEUの特許規則への厳しい要求が、インドが先進国の薬局として機能するのを妨げるのではないかと懸念している。

日本は、医療費の急増に歯止めをかける方策として後発医薬品の使用増加に躍起になっている。日本は医療費に年間36兆円(4500億ドル)費やしており、これは2035年までには93兆円にまで増大する見込みである。今年の4月、日本はインドと自由貿易協定に調印した。これによりインドの会社が日本の市場に到達するのがより容易になる。

後発医薬品はアメリカでは医薬品市場の70%を占めるのに対して、日本では970億円の医薬品市場の18%を占めるに過ぎない。この原因は主に日本の医師にあると、コンサルティング会社マッキンゼーの東京オフィスのパートナー、Ludwig Kabzlerは言う。なぜなら、日本の医師は医療システムを大幅に変えること、特に医師の自由を制限する変化には全てに抵抗してきたからだ。

2013年までに後発医薬品のシェアを30%まで上げることを目指して、日本政府は昨年、病院に後発医薬品を処方するよう推奨したり患者に後発医薬品の使用を促したりする改革を取り入れた。現在、抗コレステロール薬リピトール(atrovastatin)や抗うつ薬パキシル(paroxetine)といったいくつかのブロックバスターが日本で特許切れを迎えようとしている。

「それにより日本は後発医薬品のかなり魅力的な市場になるだろう。そしてインドの会社はそれを間違いなく狙っている」と、Bangaloreにあるインドのバイオテク起業BioconのKiran Mazumdar-Shawは言う。

いくつかのインドの会社は最終的な製品よりも原薬を、既に日本の会社に供給している。Chandigarhに本社のあるInd-Swiftは日本の当局である医薬品医療機器総合機構から risedronate sodium(骨粗鬆症薬)とpioglitazone(糖尿病薬)の原薬の供給の許可を得たところである。この会社はこの他に、コレステロール低下薬とアルツハイマー病薬の5つの原薬を申請している。

しかし、日本の審査は、データの細部にこだわり時間がかかることで有名であり、このことがインドの会社の進出を阻んでいるとManzumdar-Shawは言う。自由貿易協定はこれを緩和するだろうと彼女は言う。輸入関税も、現在の4-10%からゼロへと減少することになっている。

Ind-Swiftの副部長Anurag Chaturvediは、同社は原薬だけでなく後発医薬品を日本の医療システムに直接提供することを熱望していると言う。

協定はさらに、日本とインドの企業間により多くの取引をもたらすかも知れない。2008年には製薬会社である第一三共がインドの製薬会社Ranbaxyを、日本における後発医薬品の製造を拡大することを視野に入れて買収した。さらにインドの別の後発医薬品メーカーDr. Reddy’sが現在日本のパートナーを模索している。

その一方で、貿易交渉において、EUはヨーロッパの製薬会社が臨床試験データの著作権を所有することを許可しようとしていた。これはインドの会社が後発医薬品を製造する前に、特許切れの薬の臨床試験をもう一度行わなくてはならないことを意味していた。

EUは現在はこの案を取り下げているが、問題はまだ残っていると、オックスファムのBrusselsオフィスの政策官であるKatrien Vervoortは言う。なぜなら、インド自身がいずれ、データをインドの会社にだけ紹介するようになると思われるからだ。「その場合、これはヨーロッパの産業にも適用されるだろう」と彼女は言う。

支援団体は、製薬会社の投資を守るための協定の別の側面が貧しい人たちの健康を脅かしていると言う。もし特許の制限が厳しくなりすぎると、インドは公衆衛生のニーズに応えるために、特許薬の後発医薬品製造を強行するための強制実施権を発行すると思われる。しかし、医療慈善団体である国境なき医師団により運営されている、基本的医薬品の入手権のためのキャンペーンの Michelle Childsは、知的財産を投資として扱う協定の条項のために、インドがこのようなやりかたで特許の壁を取り除くことができなくなるかも知れないと言う。

http://www.nature.com/news/2011/110621/full/news.2011.377.html

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