Nature/Scienceのニュース記事から
Tweet第12回(2011年7月5日更新)
幹細胞研究者がクリニックに立ち向かう
規制がない中、研究者たちは、まだ確立していない治療法について患者を啓蒙することを考えている
幹細胞治療を行うクリニックに、どのような治療を提供しているのか問い合わせると、即座に弁護士からの手紙を返されることがある。クリニックからの法的脅威に直面して、国際幹細胞学会 (ISSCR) は、患者が治療法についての宣伝を見極めるのを助けるためのサービスを保留した。今後どうするのかは現在検討中である。
幹細胞の研究者にとって、 再生医療を提供しているクリニックの世界的な増加は苛立たしいものである。このようなクリニックが提供している治療の多く(パーキンソン病から脊髄損傷にいたるまで様々な症状に効果があることを見込んで患者の幹細胞を本人の体に注入する)は、お金の無駄であるだけでなく、もしかすると危険かも知れないのだ。「この研究分野の正当性が本当に損傷を受けてしまう可能性がある」と、カナダのUniversity of Albertaで保険法と政策を研究するTimothy Caulfieldは言う。
昨年の6月、ISSCRは患者の啓蒙のために「Submit a Clinic」というウェブサイトを立ち上げた。「幹細胞クリニックや幹細胞治療を提供するその他の機関の広告を見たことがありますか?それらについてもっと知りたいですか?」とそのサイトは尋ねており、ユーザーにそれらの医療機関の名前を投稿するよう勧めるものである。ISSCRは各医療機関が医学倫理委員会を設置しているか、また、FDAなどの規制機関により監督されているかどうかといった情報を取得して提供するとしていた。問い合わせに対する回答はウェブサイトに記載されることになっていた。
しかし、初期の問い合わせの結果、ISSCRにはクリニックを取り調べる権限はないと反論する弁護士からの手紙が返ってきた。Rockfeller Universityの幹細胞研究者でありISSCRの前代表であったElaine Fuchsは、ISCCRは法的助言を依頼して、ISSCRが確かな根拠に立脚していることを確認した、と言う。それでも、訴訟を起こされるとISSCRの限られた資源はすぐになくなってしまうことは誰もがわかっていた、と彼女は言う。
2月には、ISSCRはこのプロジェクトを棚上げにした。ISCCRの年会で今月、Stanford Universityの幹細胞研究者Irving Weissmanは聴衆に助言を求めた。「我々はどうするべきだろうか?」と彼は尋ねた。「我々は、訴訟の危険をおかすべきなのだろうか?」聴衆は共通見解にはいたらず、プロジェクトは今も保留のままである。
研究者の中には、患者はこれからはInternational Cellular Medicine Society (ICMS) に助言を求めるだろうが、ICMSのメンバーの中には再生医学産業とつながりの深い者もいる、と懸念する。ICMSは、Broomfieldに拠点をおくクリニックRegenerative Sciencesの院長らにより設立されたもので、幹細胞治療のクリニックに認証を与えている。昨年8月、FDAはRegenerative Sciencesに対し、適切な製造基準に従っていないとして、国による業務停止命令を請求した。
多くの国において、規制のないままクリニックが操業している。5月にはドイツで、幼児の死亡と10歳の少年の仮死に関連して、悪名高い幹細胞クリニックが閉鎖された。しかし、確立していない治療を提供している他のクリニックは世界中で操業している。アメリカでは、クリニックは規制を逃れる傾向にある。FDAは治療がある一定の基準に当てはまる場合にのみ立ち入る。例えば、幹細胞が抽出された後でかなり操作される場合や、幹細胞が提供者以外の患者に対して使われる場合などである。
Fuchs氏は、ISSCRにはまだ、未確立の治療法のリスクについて患者と政治家を啓蒙するという選択肢が残っている、と強調する。ISSCRのウェブサイトには、患者がクリニックを評価するときに尋ねるべき質問の一覧が乗っている。そして、ISSCRは、時々クリニックを無批判に取り上げるマスコミに対して啓蒙する方法を議論している。ISSCRには既にかかりつけ医を対象にした計画があるとCaulfieldは言う。ISSCRは幹細胞クリニックについての記事をCanadian Family Physicianという、カナダの全一般医に送られる医学雑誌に発表しようと考えている。
その間、幹細胞研究者たちはクリニックについて助言を求めてひっきりなしに送られて来るeメールに直面している。Caufieldはこれらの問い合わせに対しては、訴訟の脅威を意識して慎重に返答している。「この記事を書くのはちょっと怖いです。クリニックの名前には触れません」と彼は言う。
http://www.nature.com/news/2011/110628/full/474550a.html