Nature/Scienceのニュース記事から



第13回(2011年7月13日更新)

ヒトの肝臓を持つマウスはヒトと同じように薬物を処理する

「ヒト化」されたマウスが、ヒトに対する薬物の毒性をより良く評価できるかも知れない

ヒトの肝臓は特有の生理機能を有するため、薬剤候補化合物の毒性が動物での前臨床試験では見つからない可能性がある。しかし、ヒトの肝臓を移植されたマウスでは、ヒトの体内での代謝を模倣することができる。そのため、薬の候補化合物について起こりうる問題を、臨床試験を始める前に見つけられるかも知れない。

MITのSangeeta Bhatiaが率いる研究チームは、20 mmの人工ヒト肝臓を作成し、正常マウスに移植した。これらのマウスは移植から数週間後にはヒト肝臓の特徴を持った代謝を示した。この研究はProceedings of the National Academy of Sciencesに発表された。

「鍵となる技術は、安定した移植片を研究室で初めて作成したことです」とこの論文の著者のAlice Chenは言う。肝臓の代謝機能を実行するヒト肝細胞を、マウスの線維芽細胞、および肝細胞が機能するのに必要な化学シグナルを送るヒト肝臓内皮細胞と組み合わせた。彼らは細胞パッケージをプラスチックの骨格で包んでマウスに移植した。

このマウスに、ヒトとマウスとで代謝が異なる薬物を投与すると、このマウスはヒトと同じ代謝生成物を生成し、ヒトと同じ代謝相互作用を示した。著者らは、この新しい技術により臨床試験の前に薬物の毒性を特定でき、それにより薬の開発がより安全で廉価になると期待している。

「この移植片は本物の肝臓からはほど遠いにもかかわらず、ヒトにおける代謝を模倣できたことは注目に値する」と、この研究には参加していない、パスツール研究所のJames Di Santoは言う。しかし彼は、これらのヒト化マウスでは、ヒトとマウスとで代謝が著しく異なる、一定の種類の薬を評価できるにとどまるのではないかと言う。マウス肝臓には何千万個もの細胞があるのに対して、この新技術に使われた移植片はヒト肝細胞を50万個しか含んでいない。そのため、マウスの細胞による代謝によって、本来見たかったヒト肝細胞による代謝生成物が隠されてしまうケースもあるかも知れない。

以前に別の研究者らが、肝臓に損傷のあるマウスにヒト幹細胞を注入してヒト細胞が損傷を修復するのを待つという方法で、より高い割合のヒト肝細胞を持つマウスを作製したことはあった。しかし、このようなキメラ肝臓が生成するためには何ヶ月もかかる。それに対して今回のBhatiaらのチームの人工肝臓を作るのにはたった1-2週間しかかからない。「キメラ肝臓はばらつきも高く、ヒト細胞のうちのどれぐらいが本当に肝代謝機能を持っているかもわからない」とChenは言う。

移植片のもう一つの利点は、マウスの免疫系によりすぐには攻撃されないということである。「ポリマーの細孔のサイズを調節してマウス免疫細胞が移植片の内側のヒト細胞に容易に接触できないようにすることができます」とChenは言う。人工肝臓はすぐには拒絶されないため、マウスのどの系統にも移植可能で、その後何週間もその機能を調べる時間がある。これに対して、キメラ肝臓は免疫不全マウスでしか作ることができない。

ロックフェラー大学のAlexander Plossにとって今回の研究成果は、移植片が薬物の試験だけでなく、ヒト疾患を研究することにも有用である可能性を意味している。彼は移植を受けたマウスを、ヒト免疫系というナットやボルトを付け足すことで、道具箱のように使うことを考えている。彼の研究チームは最近、ヒト化免疫系を持つマウスを作製することにより、肝細胞に感染するC型肝炎ウイルスの非霊長類動物モデルを初めて作製した。「ヒト化免疫系マウスにヒト化肝臓を移植することにより、肝炎ウイルスやマラリア寄生虫が免疫系細胞と肝臓とに相互作用するのを同時に追跡することができるだろう」とPlossは言う。

http://www.nature.com/news/2011/110711/full/news.2011.409.html

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