Nature/Scienceのニュース記事から
Tweet第15回(2012年5月14日更新)
議論を呼んだインフルエンザの論文が公開される
教科書を書き換えるときがやってきた。これまで60年間誰もが、女性は卵子を全て持った状態で産まれてきて、再生することはできないと考えてきた。しかし、22歳および23歳の女性の卵巣で、卵子を生成できる幹細胞が発見されたことで、この考えが再考されることとなった。
Nature Medicine誌に発表されたJonathan Tillyらの論文の内容は、2009年に上海の研究グループがマウスでこのような幹細胞を発見した論文と一致するが、これらマウスでの研究については、統一見解が得られておらず、多くの研究者が、卵子幹細胞の存在に疑問を持っていた。
今回のこの研究は、マウスで以前行われた研究が正しかったということだけでなく、ヒトの成体組織に幹細胞が存在するということをも証明するものであると、Tilly氏は言う。
最初に Tilly氏らは、卵巣幹細胞をより良く分離する手法を開発した。この手法は、幹細胞表面には発現しているがより分化した卵細胞には発現していないタンパク質に対する抗体を用いて、FACSにより幹細胞のみを分離するものである。このとき、死細胞や、損傷を受けた細胞も除去できるため、従来の手法よりも幹細胞の純度が高くなっている。
その後、埼玉医科大学のYasushi Takai氏より提供された、性別適合手術の患者から摘出した凍結卵巣の細胞を、この手法で分離した。Tilly氏は、実験が成功したのを見て、言葉にできないほどの興奮と、いくらかの安堵を感じた。
分離された細胞は卵原幹細胞 (oogonial stem cells; OSC)と呼ばれるもので、実験室で培養すると自然と未成熟卵母細胞と見られる細胞を生じた。これらのOSCの分化をより自然な条件で調べるために、彼らはこれらの細胞をGFPで標識してヒト成体卵巣組織片に注入し、マウス皮下に移植した。1、2週間後にこれらのOSCは、緑色の蛍光を発する、卵母細胞の形態をした細胞を形成し、しかもこれらの細胞は卵母細胞のマーカーを発現していた。
「これらの卵母細胞が本当に個体発生能力のある細胞だという確認はまだできていないが、他の全ての知見はこの細胞は本物の卵母細胞前駆細胞だと示唆している」とTilly氏は言う。次のステップは、ヒトOSC由来の卵母細胞が受精して胚を形成できるのかどうかを調べることだが、これには民間の資金源が必要である(アメリカの公的研究資金による研究では、ヒトの胚の破壊を伴う研究は法律で禁止されている)。あるいは、イギリスの研究者と共同研究をするためにライセンスを取得する必要がある。
イギリス・エジンバラの再生生物学者Evelyn Telferは、当初はマウスでの研究に懐疑的であったが、今回の研究の発表により、現在はこれらの研究を信じている。「私はTillyの研究室を訪ねて、これらの細胞の挙動を自分で見た。それは説得力があり、すばらしいものだった。」彼女は、ヒト卵子のin vitroでの成熟を研究しており、OSC由来の卵子を受精できる段階にまで育てる試みを、Tillyと共同で行う予定である。
体の中でOSCが自然に卵子を生成できるという証拠はまだないと彼女は言う。しかし、もし 培養ディッシュの中でOSCを、体外受精に使用できるような卵子にまでうまく分化させることができれば、不妊治療の様相は一変するのではないか。
「本当に『もしも』の話だが、これは、OSCをまだ含んでいる卵巣組織を持った女性にとっては、無限に卵子を供給できるかも知れないことを意味する。」とTilly氏は言う。これには、癌に対する化学療法を受けた女性や、早期閉経を起こした女性、あるいは、正常に老化した女性も含まれる。更なる研究により、40代の女性の卵巣にもOSCが存在することを確認したとTilly氏は言う。
さらに、実験室でOSC由来の卵子を培養することにより、これらの細胞を体の中で再活性化して卵子を生成し続けるようにして、女性の生物学的時計を遅らせるホルモンや薬物のスクリーニングも可能になるかも知れない。「卵巣機能をたった5年延ばしただけでも、体外受精を行う年齢の女性のほとんどをカバーできる」とTilly氏は言う。
http://www.nature.com/news/egg-making-stem-cells-found-in-adult-ovaries-1.10121