Nature/Scienceのニュース記事から
Tweet第29回(2012年8月3日更新)
癌幹細胞が同定される
これまでに既に、癌幹細胞の存在が提唱され、この細胞が継続的に癌細胞を生み出し、それにより腫瘍が形成され成長していくのだと考えられてきた。しかし、それを実際に証明した研究はなかった。
一昨日(8月1日)、Nature誌やScience誌にオンラインで掲載された以下の3つの論文は、実際に癌幹細胞から癌細胞が生まれることを皮膚、脳、消化管でそれぞれ証明している。
1. 皮膚:Drissens,G., Beck, B., Caauwe, A., Simons, B.D. & Blanpain, C. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature11344 (2012).
2. 脳:Chen, J. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature11287 (2012).
3. 消化管:Schepers, A.G. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1224676 (2012).
いずれの論文でも、腫瘍細胞を標識し、その後どうなるかを追跡している。
皮膚の論文では、幹細胞とそれ以外の細胞を区別せず、癌の細胞全体を標識し、その後の動きを追跡したところ、2種類の分裂パターンがあることがわかった。すなわち、ごく少数の細胞を生み出した後に消えていくか、多数の細胞を生み出し続けるのか、の2パターンである。これは、腫瘍の一部の細胞が癌の成長の源になっていることを示している。
脳の論文では、神経幹細胞を標識するマーカー遺伝子を腫瘍の細胞で調べたところ、どの腫瘍にも少なくとも数個は標識された細胞が存在することがわかった。標識されていない細胞は化学療法で破壊できたが、腫瘍はすぐに再発した。さらなる解析により、標識されていない細胞は、標識されている細胞に由来していることがわかった。化学療法と並行してこのマーカー遺伝子を抑制すると、腫瘍は縮小してわずかな痕跡を残すのみとなった。
消化管の論文を発表したグループは以前、消化管幹細胞を標識する遺伝子マーカーLgr5が、腫瘍の前段階である良性の消化管腫瘍においても幹細胞を標識することを発見していた。今回の論文では、薬物(Tamoxifen)により活性化されると、4色のうちランダムに1色の蛍光を発する遺伝子を組み込んだマウスが用いられた。すなわち、このマウスに再度Tamoxifenを投与すると、蛍光の色が変化する。Tamoxifenを投与した後で形成された腫瘍を調べると、各腫瘍内の複数種類の細部は全て同じ色の蛍光を発していた。このことは、1つ1つの腫瘍は1つの幹細胞に由来していることを示唆している。幹細胞が腫瘍に細胞を供給し続けるかどうかを調べるために、再度Tamoxifenを添加すると、いくつかの幹細胞の蛍光の色が変化した。さらにその後、この新しい色の蛍光を発する細胞が産生されていった。このことは、腫瘍内で幹細胞が他の種類の細胞を産生し続けるということを示している。
これらの研究は、Nature NewsやScience Newsを初めとして多数のメディアで取り上げられている。