Nature/Scienceのニュース記事から



第30回(2012年8月10日更新)

幹細胞バンク・プロジェクト

成体マウスの皮膚細胞から誘導された人工多能性幹細胞(iPS cells)を最初に報告した山中伸弥博士らの主導で、ヒト幹細胞バンクの作製が計画されている。これは、全国で保管されている臍帯血サンプルから細胞株を作製し、臨床試験に提供するものである。

日本ではiPS細胞を臨床応用するための8つの長期研究プロジェクトに多額の研究費をつぎこんでおり、その1つが山中博士がセンター長を勤めるiPS細胞研究応用センター(CiRA)での、パーキンソン病への応用研究プロジェクトで、その額は1年あたり約2億円である。このプロジェクトでも、臨床までは少なくとも3年はかかる。

iPS細胞を用いた初の臨床試験は網膜の修復が目的で、神戸の理研で来年行われる予定である。これらの臨床試験には山中教授らが計画しているiPS細胞バンクの細胞は使われないが、もしこれらの試験がうまくいけば、iPS細胞への需要が爆発的に増大し、供給が不足することが予想される。

山中博士らは、2020年までに全体の80%の人口をカバーすることができる75種のiPS細胞株を作製することを計画している。そのためには、HLAと呼ばれる免疫関連細胞表面抗原タンパクをコードする3つの遺伝子について、2つの同じコピーを持つドナーを見つけなくてはならない。これには、64,000人のサンプルを調べて、その中から75人のドナーを見つける必要がある。

これを容易にしうるのが、日本にある8つの臍帯血バンクである。これらバンクには29,000人分の臍帯血サンプルがあり、全てHLAの型が調べられている。山中博士は、これらサンプルを使用できるよう交渉中であるが、ドナーからさらなるインフォームド・コンセントを取る必要があるかどうか現在検討中である。

山中博士らはCiRAの2階に既に細胞処理設備を導入しており、現在は京都大学に倫理に関する許可を申請している。研究チームは、来年の3月までに1つ目の細胞株を得たいとしている。これが成功すれば、日本の人口の8%をカバーできることになる。

日本では遺伝子多様性が比較的低いため、山中博士らのこのプロジェクトは有利である。日本以外の場所では、多くのiPS細胞バンクは疾患を持った人々の細胞に特化しており、治療よりも研究に使用することを目的としている。

iPS細胞は分化した細胞から作られるため、変異やその他の欠陥が蓄積されるなどの問題もあり、全体像の見えない現時点では臨床応用は時期早尚であるという指摘もある。血液細胞から得られたiPS細胞は癌化するという報告もある。

山中博士らの研究チームは、この問題は白血球を注意深く除去することで回避できるとしている。彼らは「我々は国家的資源を作ろうとしているのだから、それは安全で国民に信頼されるものでなければならない」と言う。

http://www.nature.com/news/stem-cell-pioneer-banks-on-future-therapies-1.11129

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