Nature/Scienceのニュース記事から



第31回(2012年8月16日更新)

何をもってユダヤ人であるとするのか

全世界にユダヤ人は1300万人ほどいるが、ユダヤ人の定義については様々な分野の学者たちの議論の対象だった。遺伝子か?文化か?それとも宗教か?過去に、ユダヤ人は遺伝子上のつながりがあると示した研究はあるが、その研究には北アフリカやエチオピアなど、いくつかの地域のユダヤ人コミュニティーのデータを含んでいなかった。このほど発表された研究では、これらのユダヤ人コミュニティーのデータも含められ、より総合的な結果が得られた。

ユダヤ人は伝統的にいくつものグループに分けられる。すなわち、イラク、イランおよびレバント地方に住む中東ユダヤ人、スペインとポルトガルから出たセファルディ、ヨーロッパ由来でアメリカユダヤ人の90%を占めるアシュケナージ、モロッコやアルジェリアその他の北サハラの国々の北アフリカユダヤ人、エチオピアユダヤ人、そして世界中に散らばったその他のユダヤ人などである。聖書によればユダヤの起源は4000年前のアブラハムとその子孫たちであるが、歴史家たちはユダヤの起源はもっと複雑で、中には現代のユダヤ人はユダヤ教への改宗者の子孫で遺伝子上のつながりはないとする考えもあった。

2010年には、中東、セファルディ、アシュケナージの3大ユダヤ人グループが2000年前にまでさかのぼって遺伝子上のつながりを持っているという報告がなされた。この報告によれば、これら3つのユダヤ人グループは近隣の非ユダヤ人グループよりもこの3つのグループ間での方が遺伝子的に近く、各グループ内の近さは4〜5従兄弟姉妹(自分から数えて4〜5代前の祖先が兄弟姉妹)と同等程度であった。しかしこの研究は、世界でも2番目に大きいユダヤ人グループである北アフリカユダヤ人や、ユダヤ人であるという主張に賛否両論のあるエチオピアユダヤ人などを含んでいなかった。

今回の研究では、モロッコやイエメンにかけて住むユダヤ人からもサンプルを集めて解析した。その結果、今回サンプルを集めたグループは遺伝子的特徴を共有しており、ローマ時代以前にまでさかのぼって共通の祖先を持つことが示唆された。北アフリカユダヤ人、特にモロッコとアルジェリアのユダヤ人はアシュケナージおよびセファルディ系ユダヤ人と遺伝子的に近く、北アフリカの同年代の非ユダヤ人との交配はほとんど見られなかった。一方、グルジアのユダヤ人は、中東ユダヤ人に近かった。イエメンのユダヤ人は中東ユダヤ人と遠い関連性があったが、エチオピアユダヤ人は独自のクラスタを形成しており、他のユダヤ人グループとの間に遺伝子的な関連性は見られなかった。各グループにおいて、地域の非ユダヤ人との交配はほとんどなかった。モロッコおよびアルジェリアのユダヤ人は、遺伝子的には3〜4従兄弟姉妹ほども近く、チュニジアのジェルバ島のユダヤ人は従兄弟の孫ほども近かった。

これらの結果から、多くのユダヤ人は遺伝子的関連性があるが、中にはそうでないグループもあり、それらのグループはユダヤ教への改宗者に由来していると考えられる。また、いずれの起源であれ、ユダヤ人グループがいったん形成されると、その後は遺伝子的に孤立していることがわかった。

この結果はユダヤ人の多数の移住や迫害の説明となる。例えば、北アフリカユダヤ人とアシュケナージ、セファルディ系ユダヤ人の遺伝子的つながりは、1400年代後半のスペインにおける宗教裁判によるスペインやポルトガルのユダヤ人排斥を反映しているのかもしれない。エチオピアユダヤ人のような特定のグループは、ユダヤ教の創始者たちが地域住民をユダヤ教に改宗させ、その後その人々が異教徒と結婚しなかったものと思われる。

ユダヤ人であることの遺伝子的要素を特定することは、歴史的のみならず医学的にも意義深い。ユダヤ人はいくつかの遺伝子病のリスクが高いことが知られており、ユダヤ人の遺伝子的特徴を調べることによりユダヤ人により良い医療を提供できる可能性がある。

http://news.sciencemag.org/sciencenow/2012/08/the-roots-of-jewishness.html

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