Nature/Scienceのニュース記事から



第38回(2012年10月4日更新)

生命科学の論文取り下げの主な理由は不正行為

科学論文の取り下げは、ほとんどが意図せぬミスを理由としていると思われてきた。しかし、Proceedings of the National Academy of Sciencesに最近発表された調査結果によれば、生命科学の論文取り下げのうち3分の2が、不正行為またはその疑いが理由であった。そして、雑誌側は理由を曖昧にしか公表しないことがよくある。これについて、Nature Newsで論説されているの紹介する。

この調査では、今年の5月3日までに取り下げられたPubMed上に表示されている2,047報の論文全てに対して行われた。雑誌側が述べている取り下げ理由を額面通り信じるのではなく、US Office of Research Integrityによる調査や、ブログ“Retration Watch”で報告された証拠などを含む二次的な情報も利用して、取り下げの本当の理由を検証した。

調査の結果、取り下げ理由の43%は不正行為またはその疑い、14%は重複発表、10%はデータの盗用となっており、意図せぬミスは21%にすぎなかった。過去に行われた同様の調査では、意図せぬミスの割合が今回の結果の1.5倍から3倍と算出されていた。二次的情報を考慮に入れた結果、異なる全体像が見えた格好だ。こういった過去の調査を発表した著者の中には、「雑誌側が公表する取り下げ理由には、意図的にぼかしたように見えるものが少なからずあった」と言う人もいる。著者と雑誌が、メンツを保ち告訴を避けるために曖昧な取り下げ理由を公表するのかもしれない。

今回の調査によれば、不正行為による論文取り下げの率は1975年に比べて10倍に増加している(0.01%)。以前の調査でも、論文取り下げ全体が増加傾向にあることはわかっていたが、今回の調査により、不正行為による取り下げが増えていることが明らかとなった。さらに、雑誌のインパクトファクターと不正による取り下げ件数との間に相関があることもわかった。Science、Nature、PNAS、Cellといった影響のある雑誌は軒並み、不正による取り下げ数の多い雑誌トップ10に入っている。

不正行為およびその疑いによる論文取り下げ件数の多かった雑誌
 1. The Journal of Biological Chemistry (取り下げ件数:37)
  2. Anesthesia & Analgesia (取り下げ件数:33)
  3. Science (取り下げ件数:32)
  4. The Journal of Immunology (取り下げ件数:30)
  5. PNAS(取り下げ件数:27)
  6. Blood (取り下げ件数:21)
  7. Nature (取り下げ件数:19)
  8. The Journal of Clinical Investigation(取り下げ件数:17)
  9. Cancer Research(取り下げ件数:16)
  10. Cell(取り下げ件数:13)

1位と2位のThe Journal of Biological ChemistryとAnesthesia & Analgesiaは、いずれも少数の著者が多数の論文を取り下げたため、取り下げ総数が多くなったものである。

不正による論文取り下げが増加しているのが、不正行為が増えたためなのか、それとも論文がより詳しく精査されるようになったためなのかは不明である。さらに、インパクトファクターの高い雑誌で取り下げ件数が多いのが、より詳細に精査されるためなのか、それともそのような雑誌が不正を行う人を引きつけるためなのかも不明である。しかし、一流誌に論文を出すことの大きなメリット、すなわち研究費やテニュア(終身雇用権)の獲得などは、こういった傾向の原動力の少なくとも一部にはなっているのではないかと、今回の調査の著者は話している。

ジャーナリストでRetraction Watchの創設者でもあるIvan Oransky氏は、雑誌が公表する取り下げ理由の明瞭性などに基づいて雑誌を評価する“Ttansparency Index”の導入を提唱している。しかし、今回の調査の著者は、そのようなデータベースをどうやって適切に維持・更新していけるのか疑問だとしている。

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