Nature/Scienceのニュース記事から



第40回(2012年10月18日更新)

ノーベル賞を取った研究が新薬の開発を後押ししてきた

2012年のノーベル化学賞を受賞したRobert Lefkowitz博士とBrian Kobilka博士は共に臨床医としての訓練を受けたが、細胞情報伝達の魅力にひきつけられて基礎研究者になった。そして医学の発展に素晴らしい恩恵をもたらした。細胞情報伝達に重要なタンパク質についての彼らの研究のおかげで、多くの医薬品が開発され、さらには、より選択性の高い薬への道も開けるかもしれないのだ。

Lefkwitz博士は話し好きで、人を引きつける魅力のあるニューヨーカーで、ダーラムのDuke大学メディカルセンターで研究している。非常に控えめな性格のKobilka博士は、スタンフォード大学医学部に所属している。2人はこれまでの研究人生をGタンパク共役型受容体(GPCR)の研究に費やしてきた。GPCRは細胞膜を貫通して存在し、ホルモンや神経伝達物質などの細胞外シグナルを細胞内へと伝達する働きを持つ。その結果、生化学的な反応のカスケードが惹起される。

医薬品全体の少なくとも30%はGPCRを標的としている。GPCRは800種類ほどの類似した構造を持つタンパク質のファミリーである。前世紀の医学上の最もすばらしい発明の1つであるベータブロッカーは、GPCRに結合してアドレナリンに対する反応を阻害することにより心拍を抑えるものである。

1960年代後半、Lefkowitz博士はアドレナリンの受容体であるβ2ARに着目し、GPCRを詳しく調べ始めた。1980年代までには、ポスドクとしてやってきたKobilka博士を含むこのチームは、アミノ酸配列を調べるのに十分な量のタンパク質を精製した。β2ARの配列は、光受容体であるロドプシンに非常によく似ており、Lefkowitz博士は驚くと同時に、このような受容体が多数存在してファミリーを作っているのではないかと考えた。

GPCRタンパク質がさらに同定されていくにつれて、医薬品の開発にも使われ始めた。化学物質の効果を動物で見るのではなく、何千もの化合物のGPCRへの親和性を試験管内でスクリーニングできるようになった。このような方法で発見された医薬品には、2007年に認可されたファイザー社の抗レトロウイルス薬Maravirocもある。

Kobilka博士はLefkowitz博士のグループでのポスドクを終えた後、20年の間GPCRの結晶構造を調べる研究をしてきた。GPCRは細胞膜から取り出すと高次構造がほどけてしまうため、これは非常に難しい仕事であった。2007年、彼らの研究チームはついにβ2ARの構造を明らかにしたそれ以来、多くの研究者たちがその他13種のGPCRの構造を明らかにしている。昨年、Kobilka博士の研究チームはさらにおもしろい構造を発見した。すなわち、β2ARがひとつの末端でアドレナリン様の化合物と結合し、もうひとつの末端で細胞内のGタンパクに結合した状態での構造である。

これらの構造を知ることで、製薬研究者たちはより選択性の高い化合物をデザインできるようになった。多くの薬は類似の複数の受容体に影響する。例えば統合失調症の薬olanzapine (Zyprexa)は、12種類ものGPCRに結合する。この12個のうちほんの数個だけがよい効果を発揮するが、その他は効果が重複していたり、あるいは体重増加などの副作用に関係している。

結晶構造がさらに明らかになるにつれて、製薬会社は個々のGPCRにぴったりとフィットする化合物をデザインできるようになるかもしれない。例えば、アルツハイマー病の候補薬の中には、脳に発現しているアセチルコリン受容体には結合するが心臓や消化管に発現している類似の受容体には結合しないものなどもある。

一方、Lefkowitz博士は、GPCRは細胞内で必ずしもGタンパクに共役しているとは限らず、β-arrestinというタンパク質にも結合できることを示した。彼はこの結合が薬の副作用を引き起こしている場合もあるのではないかと考えている。Lefkowitz博士とKobilka博士は現在共同で、GPCRに結合したβ-arrestinの構造を調べる研究を行っている。これが論文になれば、2人の共著者論文としては25年ぶりのこととなる。

しかし、この柔らかく扱いにくいタンパクと戦う上においては成功する補償などあり得ない。Kobilka博士が先週記者会見で述べたように、彼の忍耐力は「何かはきっとうまくいくだろうと思い続ける」という、根拠のない楽観主義に基づいているのだという。

http://www.nature.com/news/nobel-work-boosts-drug-development-1.11597

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