Nature/Scienceのニュース記事から



第42回(2012年11月2日更新)

マグネシウムの脳賦活化効果が試される

マグネシウムのサプリメントが脳を活性化するのではないかということは10年以上ものあいだ言われてきたが、このほど小規模な臨床試験が行われることになった。

カリフォルニアのバイオ製薬企業Magceuticsによるこの研究では、2012年10月初めから、製品Magteinが脳内マグネシウムイオンのレベルを上げることができるか調べ始めた。この試験では、マグネシウムイオンが不安を抑え睡眠の質を上げるかどうかに加え、記憶と認知機能の変化も追うことになっている。しかし、たった50人での試験では、はっきりとした結論にいたるのは難しいという批判もある。

Magceuticsを設立した北京のTsinghua大学の神経科学者Guosong Liu氏は、MagteinはADHDやアルツハイマーなど、より広範な症状に効くかどうかをいずれは調べたいとしている。しかし彼は、マグネシウムのサプリメントという単純なものにそんなに顕著な効果があることを他の学者達に納得させるのは難しいとわかっているらしい。「出来すぎた話だと皆思うでしょう」と彼は言っている。

Nature誌が取材した学者の多くは、この意見に同感だと語った。ある臨床研究者は、重大な疾患の魔法の薬に過剰に喜ばない方が良い、と言う。また、今回の試験で何か結論が出るということにすら懐疑的な学者もいる。

これまでほとんどの試験をラット、そして彼自身を使って行ってきたLiu氏にとって試練の時である。1999年に彼が所属していた研究チームがNMDA受容体2B(NR2B)を脳に過剰発現させてシナプスのつながりを強化することでマウスの記憶を改善することを示した(この研究は“smart mouse”の研究と呼ばれている)。2004年には、Liu氏のチームがマグネシウムがこれらシナプスの変化において重要な役割を担っていることを示した。2010年には、彼はラット脳内のマグネシウムレベルを上げると長期および短期記憶が改善されることを報告した。

他の研究グループも老齢ラットで高用量のマグネシウムが記憶機能を改善することを示している。ヒトでの研究でも、経口マグネシウムサプリメントが、老齢患者で深い睡眠の持続時間をのばすこと、また、ストレスホルモンであるコルチゾンのレベルを下げることが示されている。

しかし、これらの研究をもとに事を進めるのは難しい。なぜなら、マグネシウムイオンは誰にでも入手可能で特許が取れないため、製薬企業が開発資金を出そうとしないからだ。マグネシウムに脳内で上記のような作用を発揮させる化合物を見つけることが今後の課題となるだろう。

Magteinは、イオンを脳に送るという問題を解決したデザインとなっている。この製品はトレオン酸マグネシウムを含有しており、金属イオンが元々脳内に存在するビタミンC低分子代謝物と対になっている。この化合物は24日間でラットの脳内マグネシウムレベルを15%上昇させることが示されている。

Liu氏はさらに、自身と友人らがMagteinを摂取しており、彼らの体内マグネシウムレベルは50%上昇したとしている。臨床試験で証明されていないもののアメリカで10万人が既にこの化合物をサプリメントとして摂取している。MagteinはMagceutics社が供給し、いくつかの会社が販売している。

Liu氏らは臨床試験で、“通常より不安のある”25人にこの化合物を投与し、同様の症状のある別の25人にプラセボを与える。しかし、この臨床試験は規模が小さすぎて統計的解析ができないだろうと懸念する声もある。

Liu氏も、将来的にはより大規模な試験が必要だろうと同意しているが、今回の小規模試験で良い結果が出て、それにより研究を拡大できるだろうと考えている。動物実験と3人の患者での試験の結果が希望を持てるものだったので、今年の末までにアルツハイマー病でのMagteinの効果を調べる試験を計画している。

ハーバード大学医学部のある精神科医は、ADHDでのMagteinの効果を調べるためにLiu氏と共同研究する予定である。「ADHDやある種の認知障害の治療薬はあるが、科学的根拠に基づいた治療法のない脳機能障害はまだまだある。もしMagteinが低リスクで効くのなら、認知機能に問題のある人々を支える全く新しい方法となり得るだろう」と彼は言う。

http://www.nature.com/news/testing-magnesium-s-brain-boosting-effects-1.11665

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