Nature/Scienceのニュース記事から



第45回(2012年11月22日更新)

人の医薬品が魚の繁殖を妨げる

ヒトの医薬品の中には、摂取したヒトの尿中に排泄されて、さらに下水処理を経ても除去されず、水路を通って下流でヒト以外の動物の生態に影響を及ぼすものがある。

抗鬱薬のフロキセチンもそのひとつで、アメリカの一般的な淡水魚であるFathead minnowという魚での影響についての研究結果が発表された。この魚は通常は交尾の際、オスが巣を作ってメスがそこに産卵する。卵が受精すると、オスがカビや死んだ卵を除去するなどして世話をする。

淡水でこれまでに報告されているうちでも最も高い濃度に相当するフロキセチンを水に添加すると、オスが巣を作るのにかかる時間が長くなった。さらに濃度を10倍にあげると、オスは巣作りに執着してメスを無視するようになった。濃度をさらに上げると、オスはメスを殺すようになり、生殖は行われなくなってしまった。ただし、オスをフロキセチンに曝した1ヶ月後にメスを導入すると、オスのこのような攻撃的な行動はみられなかったが、メスは産卵しなかった。

微量の医薬品の影響が出るのは生殖行動だけではない。避妊ピルの成分である17-β-エストラジオールはfathead minnowの幼生が天敵から逃れる能力を低下させる。Fathead minnowの幼生を、環境濃度(10または100 ng/L)程度のエストラジオールに曝した後で突然の振動を与え、天敵が接近してくる状況を模倣したところ、幼生が体を曲げてC型になるという逃避行動を取るまでの時間が有意に増加していた。

また、エストラジオールに曝した幼生と曝していない幼生10匹ずつを、 天敵であるbluegill sunfish と一緒に同じ水槽に入れ、幼生の半分が食べられた時点で、それぞれのグループの幼生が何匹ずつ残っているかを数えた。この実験を繰り返したところ、生き残った幼生のうち45%がエストラジオール群で、55%がコントロール群であった。

これだけだと大した差ではないように見えるが、世代を経るごとにエストラジオール群の幼生は急速に減少していくと思われる。

小さな湖を人為的にエストラジオールで汚染させたところfathead minnowの数が急激に減少したという報告が2007年に既になされていたが、原因は繁殖できないためであるとされた。今回の研究結果により、さらに幼生の生き残り能力への影響も原因だということがわかった。また、エストラジオール群の幼生では、神経伝達物質ドパミンに関連する遺伝子の発現が上昇していたということも同研究により確認された。

http://www.nature.com/news/human-drugs-make-fish-flounder-1.11843

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