Nature/Scienceのニュース記事から
Tweet第52回(2013年9月28日更新)
実在する研究者の実際の研究結果をもとに、実在しない著者名で論文が発表された事件
実在しない研究者の名前で論文がBiochemical and Biophysical Research Communications(BBRC)に投稿され、受理・掲載されてしまった。
過去に学術雑誌の査読システムの弱点を指摘するために虚偽の内容で論文が投稿され、アクセプトされたことはあった(*1)。しかし今回の論文は、内容は事実であった。
ハーバード大学Dana-Farber Cancer Instituteの実在の研究者Bruce Spiegelmanは代謝疾患の研究をしており、今回の問題の論文は、彼が学会で6回ほど発表した内容と非常に似ていた。その内容は、2つのタンパク質の肥満における役割についてであったが、その2つのタンパク質はこれまでにほとんど調べられていなかった。そして、その2つのタンパク質が肥満において重要な役割を持っているという結論が、Spiegelmanが学会で発表した内容と酷似していたため、その論文が怪しいことに気がついた。
その虚偽の論文の著者5人は、GoogleやPubmed上でも全く見つからず、論文に書いてある所属大学(ギリシャに実在するThessaly大学)のwebsiteにも、そのような研究者は見当たらなかった。また、著者のE-mail addressも、研究・教育機関のものではなかった。
そのためSpiegelmanは、BBRCのEditor-in-chiefに調査を要請した。BBRC側は、Thessaly大学から、そのような研究者は所属していないという確認を取り、件の論文を取り下げた。
Spiegelmanは、この虚偽の論文は自身に対する悪意で投稿されたと考えており、刑事事件として捜査してもらいたいと思っている。弁護士も、これは単なる学術上の不正行為ではなく詐欺であるとしている。しかしSpiegelmanが告訴するのは難しく、告訴するとしたら出版社かThessaly大学だろうとしている。
http://www.nature.com/news/mystery-over-obesity-fraud-1.13810
*1:2009年に実在しない研究者の名前で虚偽の内容の論文が受理・掲載され、Editor-in-chiefが辞任したことがあった。この虚偽の論文を投稿したのは、とある大学院生で、彼はオープンアクセスの学術雑誌から何度も投稿を招待するメールが送られてきたため、著者が出版料を支払うシステムの雑誌に虚偽の論文を投稿して、出版料を払う気さえあればアクセプトされるかどうか実験してみようと思い立ったのが動機であった。彼は同じ出版社が発行する2つのオープンアクセスジャーナルに投稿し、1つはアクセプトされたが、その後、出版料を払う段階になって論文を取り下げた。2つ目の論文は、1つ目とは異なる偽名を使ったがリジェクトされた。