Nature/Scienceのニュース記事から



第67回(2014年5月4日更新)

成人ヒトからクローンES細胞の作製に成功

2つの研究グループが、成人の体細胞の核を用いてクローンES細胞を作製することに成功したと報告した。これにより、将来的に各患者特異的な臓器の置き換え治療などにつながる可能性がある。

去年の5月に初めて、ヒト胎児および乳児の細胞からES細胞をクローニングしたという報告がなされた。今回それが成人の細胞でも可能であることが示された。

用いられた手法は、核を除去した卵子に成人の体細胞の核を移植するもので、初めてのクローン哺乳類である羊のドリーを作製したのと同じ方法である。

2つの報告のうち1つは韓国のグループからのもので、35歳と75歳の成人男子から採取した核を用いてクローンES細胞を作製した。もう1つの報告ははニューヨーク幹細胞財団研究所のDieter Egli氏らによるもので、1型糖尿病の32歳の女性から採取した核を用いたという。

iPS細胞もES細胞と同様に、ヒトにおける移植治療に有用であるとされているが、iPS細胞は遺伝子操作により誘導されるものである。ES細胞はiPS細胞に比べて均一であるため、ヒトにおける治療への応用はクローンES細胞の方が認可されやすいと考えられる。

ただし、クローンES細胞の作製技術は難しく費用もかかる上、倫理的な問題もある。臓器を作るためだけに胚をを作製するのに加えて、痛みと報酬を引き換えに健康な成人女性から侵襲的に卵子を採取するからである。

10年ほど前には誰もがES細胞の研究をしていたが、その後ほとんどがiPS細胞に鞍替えしてしまった。しかし、Egli氏はES細胞の研究にとどまった。それは、病気の治療という非常に重要な目的を達成するために複数のアプローチがあった方がいいと思ったからだという。また、今回の研究論文の著者は、もしiPS細胞とクローンES細胞という2つの選択肢があったらおそらく多くの患者は質の安定しているクローンES細胞を選ぶだろうとしている。

専門家は、クローンES細胞による治療が実用化されてもおそらく各患者ごとにクローンES細胞を作る必要はなく、細胞バンクのようなものを作って患者に合う細胞を選んで使うことになるのではないかとしている。

クローンES細胞技術によりクローン人間が作られてしまうのではないかという懸念が一般人の間ではあるが、今回の論文で発表された技術によっては実現しないだろうとEgli氏は考えている。なぜなら、Egli氏らは既に霊長類で何度も試したが、子宮に移植して着床したのは1件のみで、この胎児も2ヶ月で生育が止まってしまったのだという。

アメリカでは公的な研究費でクローンES細胞の研究を行うことは禁じられているが、Egli氏は、この研究により研究資金の交付が再開されることを期待している。

http://www.nature.com/news/stem-cells-made-by-cloning-adult-humans-1.15107

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